岸田首相が先月の26日に表明した経済対策をめぐって、減税論争が活気を帯びている。今月末の取りまとめに向け与野党や有識者、メディア関係者などがこれから、減税をめぐって喧しく論争を繰り返すことだろう。すでに各種の減税策がぶち上げられている。所得税減税、投資減税、賃上げを実施する企業を対象とした補助金交付など、有権者へのアピールに与野党の政治家は余念がない。そうした中で個人的に注目しているのが、消費税の減税だ。日本経済は世界的なインフレ圧力を受けてデフレ体質に改善の兆しがみえはじめた。政府・日銀による経済対策や異次元の金融緩和策が奏功したわけではない。ロシアによるウクライナ侵攻や、コロナ・パンデミックの沈静化に伴う物価上昇が、企業経営者や消費者のデフレマインドに楔を打ち込みはじめたのだ。物価も上がるが賃金も上がる。これが普通の経済だ。だが、よくみると日本では実質賃金がマイナス。ここに減税の論拠がある。

岸田首相は先月26日、閣議後記者会見で「成長の成果である税収増を国民に適切に還元すべきだ」と表明した。そのこころは10月中旬に召集する秋の臨時国会で衆議院を解散、総選挙に打ってでるとの思惑だろう。防衛費の増強や異次元の少子化対策に向けて増税路線を直走ってきた首相にとっては突然の変身。いくら批判されても減税策は低迷する支持率の挽回に向けた切り札でもあった。ところがこの変身、首相の思惑とは別に意外な反響を生み出した。声を顰めていた党内減税派の活動に火をつけたのである。自民党の若手有志で構成する「責任ある積極財政を推進する議員連盟」が4日、2%の物価安定目標を安定的に達成するまでの間、「消費税率を5%に引き下げる」ことなどを盛り込んだ提言をまとめたのである。総選挙が近づいている。誰かが口火を切れば堰を切ったように減税論が沸騰する。これが自民党に限らず与野党政治家の実態だろう。

世耕参院幹事長は3日、「税収の基本は法人税と所得税で、その減税は当然検討対象になってくる」と発言。茂木自民幹事長も税収の増加分について、減税によって直接国民や企業に還元することもあり得ると追随した。山口公明党代表は還元策としては「(減税よりも)給付が適している」との見解を示している。3人の連立与党幹部に共通するのは「消費税減税」に触れていないことだ。要するに税収増の還元策は実施するが、それは消費減税ではないと主張している。おそらくここが落としどころだろう。今回の減税のポイントは、好循環しはじめた日本経済を本格的な回復軌道に乗せる。そのためには物価高ともなう家計の実質的なマイナスを減税によって補填することだ。それを消費者に実感してもらう有効な対策は消費税の時限付減税だ。これを回避しながらいくら減税と叫んでも、支持率の回復にはつながらないだろう。弓を射る姿勢を強調しても、的を外しては意味がない。

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