米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は9日、政策金利はピークアウトしたとの観測が強まっているマーケットに冷水をかけるような発言をした。国際通貨基金(IMF)の研究会議で講演したもので、ロイターによると以下のようなタカ派的発言をしている。「FRBはインフレ率を長期的に2%に低下させるために十分制約的な金融政策スタンスを達成することにコミットしているが、われわれはそのようなスタンスを達成できたと確信しているわけではない」、「政策をさらに引き締めることが適切となれば、躊躇することなく引き締める」と。「躊躇なく」という言葉が出てくると、趣旨はまったく逆だが、「躊躇なく更なる金融緩和に踏み切る」と常に発言していた日銀の黒田前総裁を思い出す。物価や経済の先行きについて中央銀行のトップは、「不確か」など曖昧な表現を好む。だが政策スタンスを語る時には断定的は言葉を使うことが多い。不思議だ。

「躊躇なく」のあとにパウエル議長は次のように発言する。「さらなる政策的な動きは数カ月間の良好なデータに惑わされるリスクと、引き締め過ぎのリスクの双方に対処できるように慎重に行う」、「(政策は)会合ごとに決定する」と。「躊躇なく引き締める」とした発言の勢いを自ら打ち消している。押したり引いたり、脅したりすかしたり、中央銀行総裁というポストは大変だ。あらゆる事象に目を配りながら、自ら推進する政策目標の達成に努めいている。市場はこうした努力を勝手に解釈する。10月の雇用統計が目標を下回ったことを受け、政策金利はピークに達したと解釈した市場では、連日NYダウが急騰する活況ぶり。パウエル議長の発言はおそらく、そうした市場の動きに水を指す狙いがあったのだろう。株式市場がこの発言を契機に急落に転じたことがその証拠だ。中央銀行と市場のせめぎ合いは米国だけではない。世界中で起こっている。

日本では先の金融政策決定会合で植田総裁が、YCC(長短金利操作)の弾力運用に再度踏み切った。10年国債の利回り上限が1%を上回ることを容認したのである。これは明らかに政策金利の引き上げを意味している。だた、総裁はこれについて金融緩和政策の転換ではないと言い続けている。そんな中できのうサントリーHDの社長である新浪氏がロイターとのインタビューで、「『金利のある経済』に向けて官民が準備を進めていく必要がある」との見解を示した。ゼロ金利政策を基軸とした日本の金融緩和政策は「金利のない経済」だ。これを金利のある経済に転換する。植田総裁にかわって金融引き締め政策に向けた政策転換に備えようと言っているわけだ。「金融の引き締め」といわずに「金利のある経済」という言葉を使っている点が面白い。おそらく植田総裁の本音もそこにあるのだろう。軟着陸を目指した金融緩和政策の転換はすでに始まっている。

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