NHKがきのう、日銀の植田和男総裁のインタビューを配信した。収録したのは前日、この1年を振り返った感想や日常生活のあれこれ、体調管理、日銀スタッフや各国金融トップとの会談など、話題は広範囲に及んでいる。そんな中で金融政策の現状や展望、政策決定にあたっての注目点などにも議論が及んでいる。この4月に総裁に就任、黒田前総裁が推進した異次元緩和の修正という課題を背負っている。国内外で今年最も注目された総裁の一人だ。インタビューの中身をザッと見た感じでは、実体経済の動きを慎重な上にも慎重に観察、分析した上で政策修正のタイミングを図ろうとしているとの印象を受けた。個人的に日銀総裁に期待するのは経済の大胆な先行き見通しと現状分析の的確さ。少なくとも1〜2年先を展望しながら企業経営者や消費者、市場関係者を先導してほしいと思っている。だが、現実は日銀総裁の思考形式が意外に“後追い的”なので驚いた。
最近の物価上昇をどう見るか、「国民に大きな負担をかけたことは大きな問題だと認識しています」とのこと。「国民は物価高を受け入れている」と嘯いた前総裁よりは庶民の生活を理解しているようだ。「ただ、その主要な原因だった輸入物価上昇の価格転嫁はすでに峠を越えていて、インフレ率自体もピークを越えつつあると私ども認識しています」という。物価上昇はいずれ収まると見ている。果たしてどうか?FRBやECBなど世界の中央銀行のトップは、インフレが兆しはじめた昨年初頭、「物価高騰は一時的」と判断、政策修正のタイミングを逸した苦い経験がある。インフレは本当にピークを超えたのか、多少気になる。それ以上に気になるのは政策転換のタイミングだ。当面の注目点は「来年の春の賃金改定、それからここまでの賃金の動きがサービス価格にどう反映されていくか、この2点になるかと思います」との認識を示している。
来年マイナス金利は解除されるかとの質問に「ゼロではないと思いますが、私ども経済物価情勢が好転して、賃金・物価の好循環が見通せる状況になることが来年であることを期待はしています」と語る。好循環を主導するわけではない。実体経済の動きをまず注視する。動くのはそれからだ。では一体誰が好循環を起こすのか?企業か消費者か、はたまた政府か。それもあるだろう。日銀も重要なプレイヤーだ。黒田総裁の異次元緩和やマイナス金利はデフレ脱却にほとんど効果がなかった。むしろ経営者や消費者のマインドをデフレ化させただけだった。デフレ脱却を誘導するのは政府・日銀の役目だが、結果的には足を引っ張り続けてきた。いまその修正が問われている。金利が上がるとみれば企業も消費者も動き出す。それを無視して政府は「稼ぐ力の強化」といい、日銀は異次元緩和に縋り付く。いま必要なのは賃上げによる消費する力の強化だろう。それを後押しするのが金融政策の転換だ。
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