日経平均株価がきのう、34年ぶりに史上最高値を更新した。「失われた30年」を経た上での高値更新。まずはご同慶の至りだ。とはいえ、「なんで、いま、この時期なの」、自問しても答えはみつからない。現役の経済記者としてバブルを経験し、その崩壊につきあい、日本経済の退潮を目のあたりにしてきた。新高値更新と聞けば、すぐに“バブル”という言葉が浮かんでくる。日銀はいまだに異次元緩和を継続している。世界中に例を見ないような低金利のもとで円安が進み、日本のGDPはつい最近ドイツに抜かれた。一時米国と争った経済大国・日本。失われた30年の間に中国に抜かれ、ドイツに抜かれ、いまや経済規模は世界第4位に転落。インドに抜かれるのは時間の問題だ。この間、ほぼ政権を担ってきた与党・自民党はいま、パーティー券疑惑で目も当てられない体たらくだ。

だが時代は変化している。私の脳裏にひしめくバブリーな印象は、単なる高齢者症候群なのかもしれない。そんなことをブルームバーグ(BB)の記事を読みながら感じた。タイトルは「日経平均新たなる旅立ち、『異常』から『正常』回帰で34年ぶり最高値」。そう、34年前のあのころ、バブルに至る時代はまさに「異常」だった。そしてその後に連なるバブル崩壊後の「30年」。この時代の前半は言葉で言えば「艱難辛苦」、後半は「試行錯誤」の時代と言っていいだろう。艱難辛苦の時代に多くの人が塗炭の苦しみを味わった。そうした時代からの脱却を目指して政府も企業も政治家も消費者も、成長が止まった経済の中で試行錯誤を繰り返した。だが結果的には非正規雇用を大量に生み出し、氷河期世代の誕生に為す術もなく、日本中がデフレ経済に沈んだ34年間だった。その時代が本当に変わったのだろうか。

BBの記事の中で有識者が指摘する。「売り上げが減るから固定費を減らす世界から、経費も上がるが、売り上げも伸びる世界への転換」がはじまったと。その通りだ。「正常」化すれば日本経済はまだまだ強い。「(バブルを経て)日本企業の間に徐々に浸透してきたコーポレートガバナンス(企業統治)改革は、海外投資家も評価する材料の一つだ」ともある。今回の新高値更新も海外勢が主導しているのだろう。正常化しようと努力している日本を海外投資家が評価していることになる。ダイハツや豊田自動織機で発覚した検査の不正も、正常化への一里塚ということか。だとしても株価の上昇スピードが速すぎる。逆に言えば「正常」化への道のりはあまりにも多難で、課題解決に要するエネルギーは想像を遥かに超えている。「異常」と「正常」の間に横たわるギャップは大きすぎる。そんな中で株価だけが異常な高さに舞い上がっている。

ムームードメイン