コロナ禍の収束、ロシア軍によるウクライナ侵攻、この2つを契機に表面化した世界のインフレ。2022年6月には米国のインフレ率が前年同期比9.1%まで上昇した。当初、「インフレは一過性」と高を括っていたFRBのパウエル議長も、この少し前からインフレ退治に本格的に取り組み始め、政策金利を矢継ぎ早に引き上げた。その成果は確実に米国経済に浸透し、今年の年明け早々から市場では、「3月には利下げがはじまる」との楽観的なムードが支配的になっていた。そうした状況を一変させたのが13日に発表された1月の米CPI(消費者物価統計)だ。予想の前年同期比2.9%増を上回って3.1%上昇。12月の3.4%増は下回ったものの、予想を上回る伸び率に市場関係者の多くがある種のショックを受けていた。

順調に低下を続けてきた物価情勢がこれを機に反転上昇懸念が強まった。1月の物価上昇の主な要因は、住宅居住費の高騰にある。物価の上昇を上回る賃金の上昇で米経済は一人勝ちの様相を呈していたが、賃金と物価の上昇が居住費に波及、折からの中古住宅不足も加わって住宅居住費は急騰、インフレ再燃が懸念され始めたというわけだ。住宅居住費上昇の背景には「統計のウエイト付の修正」という技術的な要因もあるといわれている。専門家の間には「過剰に反応し、インフレが復活しつつあるとの見方に飛びつかないことが重要だ」(ロイター)との指摘も出ている。イエレン財務長官は「1月のCPIの前年比での伸びは3.1%と、22年6月に付けたピークを6%ポイントも下回った」(同)と、市場の行き過ぎたインフレ再燃懸念の抑制に努めている。

本当にインフレは沈静化に向かっているのか。ここが世界経済にとって目先最大の関心事だろう。日本とEUはいまのところ米国よりひと足先にインフレ率が低下している。それを確認するためにも27日に発表される日本の1月全国消費者物価指数と、29日の米国1月PCE(個人消費支出)統計が注目される。3月1日のユーロ圏の1月PCE(個人消費支出)統計も発表される。とりわけPCE統計はFRBがインフレ判断の重要指標としているもの。この統計が仮に予想を上回るようなことになれば、世界中の金融市場に再び悪影響を与えることになる。日米とも株価が“異常”というほど急騰している。その要因はインフレの収束と経済のソフトランディング。個人的には賃金の上昇がいろいろなところに波及し、コストプッシュインフレが続きそうな気がする。日本の春闘が低調に終われば日本だけインフレが終息し、円安が一段と加速するのではないか。なんとなく嫌な予感がする。

ムームードメイン