日銀はきょうと明日の金融政策決定会合でマイナス金利の解除を決める見通しだ。現時点ではあくまで見通し。明日発表があるまで結果はわからない。とはいえ、ここでマイナス金利を解除しなければ、植田日銀総裁が密かに狙っている金融政策の正常化はこの先、とてもではないが期待できないということになる。マイナス金利の解除に反対する勢力も水面下で蠢いている。植田総裁にとっても正念場だ。筆者は昔から早期正常化推進論者。マイナス金利解除の先のことを考えてみる。まずはマイナス金利解除の功と罪。頭にすぐ浮かぶのは金融機関(機関投資家を含む)の業績が回復するというプラス効果だ。金融機関は10年以上続いた異次元緩和の中で預金と運用資金の増加に苦しんできた。金利がゼロからマイナスに落ち込む中で、打開策として実施したのが海外への資金シフト。ブルームバーグによると日本の投資家が保有する外国証券は4兆4300億ドル(約660兆円)に達しているという。

2007年以来という利上げでこの資金の日本への環流が期待されるが、専門家の見立ては「環流せず」が大勢だ。17年ぶりの利上げといっても日米の金利差はまだ4%以上ある。この先どこまで利上げが続くかも不透明。日銀は「マイナス金利を解除しても当面は緩和政策を継続する」(内田副総裁)としており、円安に歯止めをかけるパワーはなさそうだ。実質的な利上げで金融機関にとっては貸し出し需要が気になるところ。連合がまとめた今春闘の第1次集計はベアと定昇合わせた賃上げ率は5.28%で、前年の同時点(3.08%)に比べ大幅に上回った。これにより日銀が期待する基調的な物価情勢がデフレからインフレに転換すれば資金需要が活発化し、金融機関の経営にもプラス効果が出てくる。だがそれが実現するまでにはまだ時間がかかるだろう。経営者はこのタイムラグを使って経営判断を「守り」から「攻め」に転換できるかどうか、依然として不透明だ。

マイナス効果ははっきりしている。輸出企業にとって円安メリットがこれ以上は上振れしそうにないことだ。為替差益依存から実力勝負になるだろう。トヨタは1円の円安で営業利益が450億円上振れするという。異常な時代だった。それが正常化に向かう。反対にゼロ金利を謳歌してきたゾンビ企業にとっては苦しい時代が始まる。帝国データバンクによると日本のゾンビ企業は25万1000社に達するという。日本企業の17%強がゾンビだ。黒田前総裁による異次元緩和の最大の受益者はゾンビ企業だ。これが淘汰される時代が始まる。資本主義の本来の姿に戻るわけだ。競争力のない企業が淘汰され、競争力のある企業に労働者がシフトする。長い目でみてこれはプラス効果といっていいだろう。金融政策の正常化は資本市場経済にとって本来あるべき姿だ。その意味では明日の植田総裁による記者会見が注目される。マイナス金利の解除が、「好循環」を目指す日本経済の“突破口”になるか・・・。

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