Rita Nazareth

  • 円は対ドルで一時152円に迫る、好調なADP民間雇用データ発表後
  • インテルとディズニーが安い、10年債利回りは当初の高水準から戻す

3日の米国株式市場では、S&P500種株価指数とナスダック総合指数が反発。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は注目されていた講演で、利下げを決めるに当たり、様子見姿勢で臨む考えを改めて示した。

株式終値前営業日比変化率
S&P500種株価指数5211.495.680.11%
ダウ工業株30種平均39127.14-43.10-0.11%
ナスダック総合指数16277.4637.010.23%

  パウエル議長の発言にとりわけ新味はなかったが、最近のインフレ指標は全体像を「有意に変えるものではない」との見解を示し、市場では一定の安堵感が広がった。パウエル議長はまた「今年のある時点で」利下げを開始するのが適切だとの考えも再確認した。

パウエル議長、さらなるデータ精査の「時間ある」-利下げ前に (2)

  ただ、優良銘柄2社が売られ、上値の重い展開となった。半導体大手インテルは急落。製造部門の赤字が拡大し、向こう数年は損益分岐点に達しない可能性があるとの見方を示し、失望売りが広がった。ウォルト・ディズニーも約3%下落。株主は同日開催の年次総会で、資産家ネルソン・ペルツ氏のトライアン・ファンド・マネジメントが提案していた取締役候補を退けた

  朝方発表されたADP米民間雇用者数は市場予想を上回り、労働市場の底堅さが改めて鮮明となった。その後発表された米供給管理協会(ISM)の非製造業総合景況指数は2カ月連続で低下。仕入れ価格指数は4年ぶりの低水準となった。

  エバコアISIのクリシュナ・グハ氏は「パウエル議長は、最近のデータは全体像を有意に変えるものではないと述べた」と指摘。「当社ではこの発言を受けて、6月に利下げに踏み切るには経済が強すぎるのではないかとの市場の懸念は行き過ぎだと確認されたと考えており、基本シナリオは引き続き6月開始と年内3回の利下げだ」と述べた。

  パウエル議長は利下げを望んでいるようだが、経済成長と労働市場が持ちこたえている現状では、そのインセンティブは相対的に小さいと、22Vリサーチのピーター・ウィリアムズ氏は指摘する。

  「インフレ統計が米金融当局に利下げ開始の許可を与える必要がある」とウィリアムズ氏。「米金融当局が6月に利下げに踏み切る確率は五分五分か、それを少し上回る程度だとの見方を維持しているが、2024年の合計利下げ回数は、現時点では3回ではなく2回の方に傾いている」と話した。

  BMOウェルス・マネジメントのユンユ・マ氏は株式市場の先行きについて、調整局面に入るのではなく値固めが進むと予想している。

  「市場がインフレ圧力、米金融当局、原油価格、長期金利についてこなすまで振れの大きい展開になるとみている。いずれも市場を動かし、目先のボラティリティーを高め得る要素だ」と同氏は指摘。「経済成長は引き続き健全なもようで、これらの懸念が和らげば株式市場は再び持ち直すだろう」と述べた。

米国債

  米国債相場では、短期債が長期債をアウトパフォームした。ISMデータで支払い価格指数が4年ぶりの水準に低下したことが材料視されたほか、パウエル議長の発言は今年2-3回の利下げとの見方を維持する内容だった。

国債直近値前営業日比(BP)変化率
米30年債利回り4.51%1.30.29%
米10年債利回り4.35%-0.2-0.04%
米2年債利回り4.67%-1.9-0.40%
  米東部時間16時56分

  10年債利回りはほぼ変わらずまで戻した。ADP民間雇用者数の上振れを受けてドル・円相場が152円に迫る中で、利回りは約8ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)押し上げられていた。

  ティー・ロウ・プライス・グループのエリック・ベイエル氏は、米金融当局が時期尚早な利下げに踏み切れば、信頼を失いかねないと話す。

  同氏はブルームバーグテレビジョンに対し「パウエルFRB議長はかねて、70年代の教訓から学んだと語っていた」とした上で、「今利下げを開始すれば、同じ過ちを犯す危険性があると思う」と述べた。

  米金融当局は1970年代、インフレを完全に抑制せずに、拙速な金融緩和に乗り出した経緯がある。米国で最も偉大な中銀当局者として高い評価を集めるポール・ボルカー氏ですら、景気低迷を受けて1980年に同じ過ちを犯した。しかし、すぐに引き締めへの転換を余儀なくされ、結果的に一段と深刻な不況に陥った。

為替

  ニューヨーク外国為替市場ではドル指数が下落。朝方発表されたISMサービス指標は、物価圧力の緩和を示す内容となった。またパウエル議長は利下げに踏み切る前に、インフレ鈍化の明確な兆候を探っていると述べた。

為替直近値前営業日比変化率
ブルームバーグ・ドル指数1242.85-4.32-0.35%
ドル/円¥151.69¥0.130.09%
ユーロ/ドル$1.0836$0.00660.61%
  米東部時間16時56分

  円はドルに対して下落。米ADP民間雇用者数の発表を受けて一時は151円95銭まで売られた。3月27日につけた34年ぶりの安値151円97銭を超えて円安・ドル高が進行すれば介入リスクが高まるとみられている。その後に発表されたISMデータやパウエル議長の発言を消化する中で、円は下げ渋る展開となった。直近では151円70銭前後で推移している。

原油

  ニューヨーク原油先物相場は小幅ながら4日続伸。5カ月ぶり高値となった。石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成する「OPECプラス」の合同閣僚監視委員会(JMMC)が原油供給政策を維持したため、買いが優勢になった。

  北海ブレント原油は節目の1バレル=90ドルにあと1セント未満に接近する場面もあった。JMMCは3日のオンライン会合で政策を変更しないことを勧告した。これにより日量約200万バレルの供給抑制が6月末まで続くことになる。

OPECプラスは供給政策を維持、6月末まで日量約200万バレル抑制

  米エネルギー省によると、先週の全米の原油在庫は321万バレル増加。一方、米石油協会(API)が発表した在庫は減少した。エネルギー省の統計で、ガソリン在庫は減少した。

  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物5月限は前日比28セント(0.3%)高の1バレル=85.43ドルで終えた。ロンドンICEの北海ブレント6月限は43セント上昇し89.35ドル。

  金スポット相場は7日続伸。最高値を更新した。パウエルFRB議長の発言を受けて買いが優勢になった。

  議長は最近のインフレデータについて、予想を上回ったものの全体像を「有意に変える」ものではなかったと説明。「年内どこかの時点で」利下げを開始するのが適切になる可能性が高いとの認識を改めて示した。

  金スポットは一時、1オンス=2300ドルを上回った。米国債利回りが低下し、ドルが下落したため、金の魅力が高まった。利下げが近いとの期待から、金は年初来で10%余り上昇している。

Gold Sets Another Record | Powell says Fed has time before rate cuts
金スポットがまた最高値更新出所:ブルームバーグ

  パウエル議長は利下げを実施する前に様子を見る姿勢を改めて示したが、最近のインフレ指標にもかかわらず、利下げ見通しは変わっていない。TDセキュリティーズの商品戦略責任者、バート・メレク氏は「インフレ率が目標に低下する前に大幅な利下げに踏み切ることを示唆しており、金にとっては非常にポジティブだ」と指摘した。金利低下は、利息を生まない金にとって一般的にプラスに働く。

  ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物6月限は33.20ドル(1.5%)上昇し2315ドルちょうどで引けた。

原題:Bonds Get Some Relief From Powell’s Deja-Vu Tone: Markets Wrap

  Treasuries End Mixed; Curve Steepens Further After Powell, Data

  Dollar Falls Most in Eight Days After ISM Services: Inside G-10

  Gold Nears $2,300 After Powell Says Fed Has Time Before Rate Cut

  *SPOT GOLD TOPS $2,300 AN OUNCE FOR THE FIRST TIME

  Oil Advances Near $90 as OPEC Sticks With Its Production Cuts(抜粋)