NTTが出資したサカナAI(左から2人目がハ氏、3人目がジョーンズ氏。17日、東京都千代田区で)

 NTTグループは、米グーグル出身者らが昨年、東京に設立したAI(人工知能)開発の新会社「サカナAI」に出資した。比較的規模の小さいAI同士が連携するシステムの研究を進める。日本発の新興企業と手を組み、海外の巨大ITに挑む。(上地洋実)

NTTが出資したサカナAI(左から2人目がハ氏、3人目がジョーンズ氏。17日、東京都千代田区で)

サカナAIは、グーグルのAI研究チームの日本統括だったデイビッド・ハ氏や、AIの革新的な学習方法に関する論文を手がけた著名研究者のライオン・ジョーンズ氏らが昨年8月に設立した。

 社名は日本語の魚から取った。小さな魚が集まって泳ぐイメージで、複数の開発会社が作ったAIをつなぎ、巨大AIに匹敵するシステムの構築を目指す。ジョーンズ氏は日本で起業した理由を、「AIを受け入れる土壌があり、才能がある人材を見つけるのにも適している」と述べた。

 NTTとサカナAIは、省電力のAI開発を目指している。米巨大ITなどが手がける生成AIは、「大規模言語モデル」と呼ばれる基盤技術を使っており、大量のデータ処理や電力消費に巨額の費用がかかる。

 サカナAIの取り組みは、「小さくて賢いAI」として期待が大きい。NTTのほか、ソニーグループやKDDIなど日米の企業から約45億円の資金を調達した。NTTは具体的な出資額を明らかにしていないが、国内で最大の株主になるという。

 AIを手がける新興企業への投資は過熱している。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、2023年に、生成AI関連の新興企業に投資した額は世界全体で224億ドル(約3・3兆円)に上り、22年の5倍超になった。ただ、最近の国内投資額は、米国の1万分の1程度にとどまっている。

 対話型生成AI「チャットGPT」を手がけた米オープンAIは、米マイクロソフトから巨額の出資を受けて、開発を加速させた。NTTにとっても有望な新興企業への出資は、自社の研究開発にかかる時間を買う狙いがあるとみられる。

 NTTは、次世代の通信基盤「IOWN(アイオン)」を使い、複数のAIを連携させる構想を掲げている。木下真吾執行役員は、出資を説明する発表会で、「世界有数の技術者集団のサカナAIとは展望を共有している」と述べた。両社が持つ技術を生かし、開発を急ぐ考えだ。

「日本の規制に従う」強調…創業者デイビッド・ハ氏

 サカナAIのデイビッド・ハ氏は、読売新聞などのインタビューに応じ、AI開発に向けて「日本の規制の枠組みがどのような形になっても従い、国際的な基準を順守する」と強調した。

 政府はAIの安全性を担保するため、企業や利用者向けのガイドライン(指針)を策定中で、特化した法規制の動きはみせていない。ハ氏は「他国の状況を見極めた上で、政策を決めようとする日本の方向性は賢明だ」と評価した。

 サカナAIは現在、国内外から技術者を募っており、日本で暮らすことを条件にしている。ハ氏は「アイデアを交換するには、同じ場所にいることが大事だ。リモートワークがいいとは考えていない」と語った。