米経済は依然として堅調だ。市場の一部にある早期利下げ期待は再び後ずれするだろう。というか年内の利下げすら怪しくなってきた気がする。経済が減速しないのだ。原因は簡単だ。労働市場が一向に弱くならないためだ。インフレが落ち着き、インフレを上回る形で賃上げが続いている。F R Bがどんなに政策金利を引き上げても、求職者を上回る求人が続いている。先週末(5日)に発表された3月の雇用統計によると、非農業部門の新規雇用者は前月比で30万3000人増加した。市場の予想(ブルームバーグ=B B調べ)は21万4000人増だ。これだけ予想が違えばサプライズと言っていい。B Bによると「ヘルスケアや娯楽・ホスピタリティー、建設業がけん引した」。当然のことながら雇用DI(雇用が増えた業種と減少した業種の比率)も上昇した。市場が期待する政策金利の引き下げは当分実現しないだろう。

ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のエコノミストは「3月の雇用統計は総じてポジティブなサプライズとなった。雇用者数や労働参加率、平均週給などは全て予想を上回った。これは金融当局がインフレ対策に忍耐強く取り組み、最初の利下げをさらに遅らせる可能性を高めている」と指摘する。雇用が増えれば利下げは遠のく。市場原理が働いている。B Bによると米雇用統計は2つの調査で構成されている。一つは従業員数と賃金データを収集する企業調査、もう一つは失業率データの元になる家計調査だ。このうちの家計調査によると就業者数は前月比で50万人近く上昇しているという。2月までの調査では3カ月連続で減少していた。その数値が3月に反転増加に転じたのである。就業者数が増えれば労働参加率が上昇する。労働参加率の上昇は賃上げ圧力を緩和する。米経済はインフレが高止まりする中で、賃上げ圧力が弱まる可能性があるというわけだ。

それを反映するかのように「事業所調査に基づく平均時給は前年同月比で4.1%増と、2021年半ば以来の低い伸びとなった」とある。水準としては依然として高いのだが、傾向値としては低下傾向を示している。これも一種の好循環と言って良いだろう。就業者が増えてコストプッシュ・インフレの圧力が緩和する。家計にとっては良いことずくめだ。これでインフレが想定通り2%近辺に収斂すれば、展開としては理想的だ。文句のけようがない。パウエルF R B議長は名議長として歴史に名を刻むだろう。植田総裁のもとで日本も物価を上回る賃上げが今春闘で実現した。だがまだ始まったばかり。あと何年かこの状態を続け、コストプッシュ・インフレを乗り越え物価が2%近辺に収斂した時にはじめて、日本経済の好循環が始まる。デフレの30年が長すぎたせいで、好循環への道のりも長い。果たして日本国民はこの長い正常化の道のりに耐えられるだろうか・・・

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