今年のアカデミー賞受賞作・オッペンハイマーを観た。日本人監督のW受賞で沸いた「君たちはどう生きるか」(宮崎駿監督)、「ゴジラ–1.0」についで3本目のアカデミー賞受賞作品の鑑賞。上映時間3時間という長編。法廷、聴聞会、原発の開発現場や私生活と、小刻みに画面が切り替わる映像展開。専門用語がふんだんに登場する会話など、一回観ただけでこの映画のすべてを理解するのは正直言って難しい気がした。それでも天才物理学者・オッペンハイマーが政府の強い要請を受けて開発の現場責任者に任命され、苦労の末に原爆の開発に成功するストーリーは、研究者というよりも統括責任者としての統率力にも優れていたことを証明している。これだけでも一本の映画としては成り立ちそうだ。だが、クリストファー・ノーラン監督はこのストーリーに米ソ対立、水素爆弾の開発に向けた政治家の思惑、共産主義、赤狩り、夫婦生活やオッペンハイマーの心理状態まで盛り込む。

映画を観た後で原作を読みたくなった。凡人には計り知れない天才物理学者の心理状態。ノーラン監督はおそらくそんな天才の心理状態を視聴者に共有してもらいたかったのだろう。それを象徴するのが愛人・ジーンとのセックスシーンではないか。精神病を病んでいる妻との結婚生活、研究で直面する様々な苦悩。オッペンハイマーの精神状態は徐々にストレスフルになる。そんな時に妄想するのが愛人との濃厚なセックスだ。このシーンは原作にはないようだ。難しいストーリーに盛り込んだエンタテインメントとしてのセックス。このシーンを挿入した結果、映画全体がR15+に指定された。15歳未満は鑑賞できない。ストーリーは後半に向けて原爆の必要性を主張するオッペンハイマーが、開発が進展し原爆の威力が目に見えてはっきりしてくるにつれ、物理学者としての自信が自責の念に変わっていく様子を描く。セックスを夢想した心理状態は、原爆の恐怖に苛まれていく。

そんな天才の心理状態を世間は知る由もない。マンハッタン計画を推進したルーズベルト大統領は、水爆の開発停止を要請するオッペンハイマーを「弱腰」と非難する。政府も議員も原子力委員会のストローズ委員長も、水爆開発に向けて世論を誘導する。そんな時代の中で「原爆の父」であるオッペンハイマーは、ソ連のスパイとの嫌疑をかけられる。セキュリティークリアランスの資格を審議する聴聞会は、世論を誘導するかのように共産党との接点を執拗に追求する。原爆開発の成功で時代の寵児となったオッペンハイマー。その栄光は一瞬にして消え去り、天才物理学者の苦悩と失意がはじまる。ノーラン監督は原爆を開発した当人の非を攻めているわけではない。敵国に対抗し安全保障を優先する為政者。人々の意識はその都度右へ左へと揺れ動く。時代に翻弄されるオッペンハイマー。いったい誰が正しいのだ?ノーラン監督が視聴者に投げかけた“問い掛け”のような気がする。

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