次期政権の枠組みをめぐり政党間の駆け引きが始まっている。過半数を獲得した政党がないだけに、枠組みづくりのポイントは国民生活をいかに豊かにするか。これが政権づくりのキーワードになる。減税、賃上げ、最低賃金、教育の無償化、少子化対策、社会保障、憲法改正に防衛力強化などテーマは山ほどある。既存の発想では捌ききれない。発想の転換が必要になる。意外なところにヒントはある。G P I F(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用方針の転換だ。先週の木曜日(24日)、ブルームバーグは「GPIF改革10年、『脱・国内債』の分散投資で果実-累積収益120兆円超」と題した記事を配信した。ノーリスク・ノーリターンから、ハイリスク・ハイリターンへ運用方針を転換した結果、この10年間で累計120兆円を超える含み益を生み出したというのだ。平均して1年間に12兆円の収益を上げたことになる。これは立派な減税財源になる。
日本の年金制度は賦課方式といって現役世代から集めた資金を高齢世代に給付する方式をとっている。現役世代の人数が多い現在は給付する金額より掛金の方が多い。給付分を差し引いて余った資金を運用しているのがG P I Fだ。記事によると「国内債券偏重の運用を見直した改革から31日で丸10年を迎える。当時は株式などリスク性資産への投資に対する慎重論もあったが、『脱・国内債』を掲げて国際分散投資を進めた結果、この10年の累積収益は120兆円超にまで積み上がった」。年金の資金の運用では10年前まで。運用損を出すことが許されなかった。そんな中でアベノミクスによるゼロ金利政策が始まり、運用収益を生み出すこと自体が困難になる。そんな瀬戸際で運用方針の転換が図られた。国内債から利回りの高い海外債へのウエイトを高め、典型的なリスク資産である株式の運用比率を引き上げたのだ。10年経って今では「当たり前」と見られるが、当時こうした方針転換は革命的でもあった。
G P I Fの運用総資産は前年度末で245兆円を超えている。運用収益を単純に引き算すれば、年金支払いに必要な原資は120兆円ということになる。政府の立場からすれば運用益は多い方がいいだろう。その理屈は分からない訳ではない。だがその一方で国民は、年金を含めた社会保障費の度重なる負担増に泣いているのだ。加えて手取りを上回るインフレ率の上昇で、日々苦しい生活を強いられている。そんな中で運用益と税収だけが膨れ上がり、国民は窮乏生活を強いられている。これが長年続いた自公連立政権が到達した日本の現在の姿なのだ。G I P Fだけではない。含み益はあちらこちらで積み上がっている。世界最大の資産大国である日本。個人金融資産は2000兆円を超えている。預金金利を1%上げるだけで20兆円の利子収入が生まれる。裏金づくりに精を出す自民党政権では発想の転換はできないだろう。さあどうする、野党諸君。