ブルーンバーグによると、EUの行政執行機関である欧州委員会は、財政赤字拡大を目論むイタリアに対して制裁を課すべく検討を開始した。制裁金は35億ユーロ(約4270億円)に達するという。この記事をみてEUは「弱いものいじめ」をしていると思った。ポピュリスト政党と言われる「同盟」が総選挙で勝利し、サルバーニ党首が副首相として政権をリードしている。同盟が勝利した元々の原因は、停滞する経済に喝をいれるためEUの財政規律を無視して財政赤字を拡大すると公約したことだ。その公約を実行しようとしたら、今度はEUが制裁金をかける検討を始めた。EUが抱える“絶対矛盾”がここにある。ギリシャが同じ状況に陥った時、ドイツの偉い人が言った。「遊んで暮らしているギリシャにどうして資金援助する必要があるのか」と。EUは強者の論理で動いている。

強者の筆頭はドイツ。好調な国内経済の要因は2つある。一つは人口で5億人を超えるEUという単一市場を背景に、関税なしで工業製品を輸出できること。強い工業力を背景にドイツにとってEUは国内経済活性化の砦でもある。もう一つは共通通貨ユーロ。ギリシャやイタリアなど国内経済が停滞気味の国々を多くかかえ、ユーロは必ずしも強い通貨ではない。強い経済力をもつドイツにすれば、これは願ってもない好条件だ。円が安全通貨として折に触れて高騰するのに対してユーロは、安値圏で安定している。最近はブレグジットの混乱もあり低空飛行が続いている。強い工業力をもつドイツにとってこれは絶好の交易条件だ。これがマルクだったら超高値圏に急騰しているだろう。ドイツは日本のように円高不況を懸念する必要がない。こうした状況を作り出したのはギリシャでありイタリアである。そのイタリアに制裁金を課す。強いものがより強くなる。

財政赤字がGDPの3%、政府債務が同60%を超えてはならないとするEUの財政規律は何を目指しているのだろうか。統一通貨ユーロの信任を確保するためとされているが、第1次世界大戦直後にハイパーインフレを経験したドイツが強力に後押ししていることは容易に想像がつく。だが現実は強ものがより強く、弱いものがますます弱くなる原因になっている。トランプ大統領は大幅な減税を実施して財政赤字を拡大した。それのよって米経済は順調に拡大している。対するEU。先の欧州議会選挙ではイタリアの同盟と連携する極右勢力が飛躍的に議席を伸ばした。ドイツではメルケル与党の一翼を担う社会民主党が大敗し、連立政権に亀裂が入っている。それもこれも財政規律が生み出した不満の表れでもある。財政規律を遵守することは本当に正しいのだろうか。