トランプ大統領の得意技は不公平感を抉り出すことのようだ。日米安保は不公平、NATOの負担はアメリカに偏っている、中国は通貨安に誘導しているなど、まるで米国が被害者のように様々な不公平感をえぐり出してくる。そのうえで、貿易赤字を解消せよと交渉相手を揺さぶる。昨日はとうとう利下げに踏み切らないパウエルFRB議長に業を煮やして、ドラギECB総裁がFRB議長に適任だと言い出した。誰もが考えない発想である。仮にこれがジョークだとしても、普通の政治家は言わない。それを言うのがトランプ流だ。だが、この大統領、表面上で動き回る具体的なものは見えるが、水面下で絡み合っている複雑な現実は見えないようだ。見えないというよりも見ないようにしていると言ったほうが正しいのかもしれない。

パウエル議長を指名したのは大統領である。仮に同議長に瑕疵があるとすれば、その責任は任命権者であるトランプ大統領にも及ぶ。だが、そんなことは意にも介さない。ブルームバーグによると同大統領は、「パウエル氏について「以前は全くの無名だった。私が彼を有名にしてやったので、彼は自分がいかに気骨があるかを示したいのだ」と主張。さらに、「降格させる権限が私にはある。解任する権限がある」とも述べている。これは側近との私的な会話ではない。お気に入りのFOXテレビのインタビューである。一国の大統領にあるまじき軽率さだ。テレビの司会で有名になった同大統領の、これがいわゆるひとつの“地”なのだろう。パウエル議長もこんな大統領に指名されて不本意だろう。議長を引き受けたことを後悔しているのかもしれない。

トランプ大統領の脅しも、よくよくみるとある一点に集約される。貿易赤字である。ドラギ総裁は金利を引き下げ、ユーロ安に誘導している。こうしてEUは輸出しやすい環境を作っている。関税をかけると脅しても一向に頭を下げない中国。中国政府は関税分を人民元の安値誘導で相殺している。けしからん。日本も巨大な貿易黒字があるにも関わらず、異次元緩和と称して円の安値を維持している。円安誘導批判だけ日本がゆうことをきかないなら、安保破棄も追加してみよう。こうしてブルームバーグに私的会話をリークした。考えてみればトランプ氏の発言は単純である。アメリカファーストで自国の貿易収支が黒地になれば、世界経済がどうなろうと知ったことではない。それがMake America Great Againなのだろう。「だがしかし、」と複雑な世界の現実を訴えようとすれば、「そんなこと、知ったこっちゃない」大統領の怒りの声が聞こえてきそうだ。