今朝、ニュースをみて驚いた。英国がイランのタンカーをジブラルタル海峡沖で拿捕したとある。この記事を読むと国際情勢の裏側が透けて見える。拿捕されたのは30万トン級の巨大タンカー「グレース1」。船籍はパナマ。運航会社はシンガポールに拠点を置く企業とある。グレース1はイランで原油を積み込んだあと、地中海方面に向けアフリカ大陸南端沖を航行し、スペイン南端に位置するジブラルタル海峡の英領海内で英国の海兵隊によって拿捕された。要するにグレース1はペルシャ湾を抜けてアフリカ最南端の喜望峰を回り、地中海に入ろうとしたところを拿捕されたのである。目的はシリアへの原油の密輸。EUはシリアへの原油輸出を2011年から禁止している。グレース1はこれに違反して拿捕された。

疑問1。なぜグレース1はペルシャ湾を出たあと紅海経由でシリアに向かわなかったのか。答え、「海洋情報筋によると、タンカーはスエズ運河を通る場合、積荷をいったん降ろす必要が生じ、押収される恐れもあるため、同運河を避けアフリカ回りの航路を選択した可能性がある」(ロイター)。疑問2。これがイランの船だとどうしてわかったのか。答え、 拿捕された直後に「イラン外務省が英大使に抗議したことから、イランのタンカーであることが明確になった」(同)のだという。まるでサスペンス映画を見るような展開である。グレース1がイランで原油を積み込んだのは4月中旬。拿捕されたのは昨日だから、3カ月近くかけて地中海の入り口に到着したことになる。

それにしても英国はどうしてこの船を拿捕したのか。疑問3である。答え。専門家の見方としてロイターは次のような見解を示している。「シリアとイランのほか、米国に対し、欧州は制裁措置の履行に真剣な態度で臨んでおり、イランの核プログラムを巡る問題に対応する能力もあるとのメッセージを送る意味合いがあった公算が大きい」。おそらく米国とNATOは水面下で調整を続けていたのだろう。その上で英海兵隊がジブラルタル海峡の自国領沖で拿捕したのではないか。これは毎度のことながら個人的な当て推量、根拠はない。この件に関して、ジブラルタルの帰属を英国と争っているスペインは、「拿捕は米国が英国に要請したもので、スペイン領海内で行われた可能性がある」(同)との見方を示しているという。イラン問題とは別に、ジブラルタルの領有権争いも垣間見える。国際情勢は複雑だ。