中国製品に10%の関税を課すとのトランプ大統領の制裁発言を受け、金融市場の混乱が続いている。とりわけ際立つのが金融当局の迷走ぶりだ。FRBは先月末に行われたFOMC(公開市場委員会)で0.25%の利下げを決めたが、「下げ幅が小さすぎる」とトランプ氏に噛み付かれた。大統領の方はその舌の根も乾かぬうちに今度はFRBを「無能」よばわりする始末で、利下げ要求は高まる一方だ。米国の金利低下を先取りするように昨日はニュージーランド準備銀行やインド中央銀行、タイ中央銀行などが相次いで政策金利を引き下げた。こうした中で米30年国債の利回りが過去最低水準に近づき、世界中で利下げ競争がくりひろげられている。たまりかねたかのように、シカゴ連銀のエバンズ総裁は「われわれはゼロ金利制約に高い確率で近づきつつある」と警戒感を強めている。

「ゼロ金利制約」ってなんだ。元日銀総裁の白川方明氏によると「名目金利はゼロ以下には低下しえないため、物価が下落すると、市場実質金利が上昇し、均衡実質金利を上回ることが起こりうる。このような事態に陥ると、金融政策は有効性を失うことになる」。トランプ大統領はFRBを無能と断定するが、問題の根源はそんなところにない。金融政策が有効性を失いつつあるという厳しい現実にいまわれわれは直面しているのだ。こうした状態になるとパウエル議長の首を切ろうが、FRBに罵詈雑言を浴びせかけようが、一向に事態は改善しない。挙げ句の果てがデフレスパイラルだ。ここまで来てはたと気がつく。この道は日本が辿って来た道である。日本は世界に先駆けてデフレの恐怖に立ち向かっているのだが、いまだにその軛から解放されていない。そればかりか、世界中が日本を追いかけてくるのだ。

もはや金融政策では問題は解決しない。金利を下げようが、量的緩和を実行しようが、デフレの足音は近づくことはあっても遠ざかることはない。苦悩しているのはFRBだけではないECBもニュージーランドもインドもタイも、中央銀行は苦悩の日々を送っている。トランプ氏はバカの一つ覚えのように吠えまくっているが、中央銀行は「無能」ではなく「機能」しなくなっているのだ。そこを見間違えるととんでもないことになる。それそこ世界経済の破滅だ。もはや問題は中央銀行では解決できない。デフレを回避するために必要なことは財政政策以外にない。ここに気がついているのがMMTだが、肝心の推進論者は原理・原則論は語れても解決策は語れない。中央銀行にも政府にも、次なる時代に向けた大局観がない。かくして金融市場に破綻の足音が忍び寄る。