英国下院がE U離脱法を反故にする法案を圧倒的多数で可決した。E Uはこの法案を国際法違反と主張しており、法案の撤回を要求している。英国が応じなければ法的措置も辞さない構え。ジョンソン英首相は懸案となっている貿易交渉の合意期限を10月15日に設定、この法案は譲歩を促す圧力でもある。端から見ていると英国とE Uはすでに戦争状態のようにも見える。この先、E Uがどういう手を打ってくるかわからない。英下院の反故法案成立を機に双方の話し合いが始まるのかもしれない。だが、この動きの裏にあるのは貿易協定を有利にしようとするお互いの思惑だ。経済的利益の獲得に向けて双方が、死に物狂いの駆け引きを展開している。ここに至っても依然として決着の道筋が見えない英国のE U離脱。キャメロン政権が実施した国民投票は本当に正しかったのだろうか、そんな疑念が湧いてくる。

時事通信によると「英下院(定数650)は29日、欧州連合(EU)離脱に伴って1月末に発効した国際条約『離脱協定』の主要部分をほごにする政府提出法案を賛成多数で可決した。EUに圧力をかけ、大詰めを迎えた自由貿易協定(FTA)交渉で譲歩を引き出すのが法案の狙い。しかし、EUは『国際法違反だ』と反発し、英国への不信を募らせている」という。ロイターによると反故法案には①北アイルランドの扱い②補助金の取り扱い③スコットランド、ウェールズ、北アイルランドへの財政援助を決める支出権限の明記―などから成り立っている。離脱によって英国はE Uの関税同盟の適用を受けなくなる。ここで問題となるのは北アイルランドの扱い。英国領北アイルランドはアイルランドと国境を接している。この間の関税をどうするかが最大の焦点。反故法案ではこの権限を英国が一方的に差配できることになっている。

果たして反故法案は上院でも成立するのだろうか。下院では保守党が圧倒的多数を占めている。だが、上院は保守党と労働党が拮抗している。時事通信によると「投票結果は賛成340、反対256。下院はジョンソン首相率いる与党保守党が単独過半数を握っており、大差がついた」。だが、「上院は反対派議員が多く、審議に時間がかかる見通し」とある。ジョンソン首相は法案が上院を通過するまでに相当時間がかかると見込んでいるのだろうか。それを承知の上で反故法案を提出、E Uに脅しをかけて譲歩を迫る。もしそれが本当の狙いだとすれば、これは崖っ淵で展開されるハラハラ・ドキドキの大政治ショーだ。価値観を共有する西側陣営でもこれだけの手練手管が必要になる政治交渉。価値観が異なれば交渉合意など不可能に近い。菅首相は昨日プーチン大統領と電話会談で、領土問題の早期解決を訴えている。