タイトルは経済学者、ケイト・ラワースが書いた著書の表題。著者の略歴欄には次のようにある。「経済学者。21世紀の社会と環境の問題に取り組むため必要な経済思想を探求する。(略)ドーナッツ経済学は国際的に高く評価され、持続可能な開発の専門家、進歩的な企業、政治活動化のあいだに広い支持を得る」と。世の中はSDG’sやカーボンニュートラルが主流になりつつある。そんな時代の潮流を先取りしたのがこの本だ。発刊は訳者あとがきによると2017年の春。トランプ氏が大統領に就任、パリ協定からの離脱を宣言した直後ということになる。日本版が発行されたのが2018年の2月。菅首相のカーボンニュートラル宣言が昨年の10月。私がこの本を読んだのは今年の2月。経済の在り方を問い直す試みは時間の経過とともに加速している気がする。

全体で390ページという大著である。この本の内容を一言で紹介するのはしょせん無理だ。そこをあえて切り出すとすれば、「経済成長を追求するのは間違い。経済運営を担っている主流派の考え方は古色蒼然としている」というものだ。世界中の主流派はあくなき経済成長追及派によって占められている。私もこれまで成長は必要不可欠と考えてきた。ラワースはそこに楔を打ち込む。ドーナッツの輪の中に経済活動を納めない限り、人類は破滅の道を突き進むことになると。ドーナッツとは何か、輪の外側が「環境的な上限」(それ以上に地球に負担をかけてはならない線)、内側が「社会的土台」(それ以下には誰も落ちてはならない線)と定義する。そして人類の活動はこの二つの線に囲まれたドーナッツの輪の中に納めなければならないと説く。

コロナ過によって世界中の経済がマイナスに転じている。感染拡大の防止か、経済活動の再開か、どの国もこの二者択一をめぐって政治的な対立を巻き起こしている。だがコロナによる惨状が人類の未来を暗示しているとすれば、成長を犠牲にしてでも封じ込めに注力することが正しい選択ということになる。国内でもラワースに同調する論調が勢いを増している。そのことは2月17日に当欄で書いた(「脱経済成長」への「発想転換」を阻むもの)。ラワースの主張はヒタヒタと人類の脳細胞に浸透しているようにみえる。その一方でSDG’sもカーボンニュートラルも、グリーン成長という名の「あくなき成長追及の一環」であることも間違いない。新しい発想と古色蒼然とした主流派。ドーナッツ経済学が日の目をみるにはまだ相当時間がかかる。それでもこのドーナッツには、かぶりつきたくなるような魅力がいっぱい詰まっている。