EUと米国が相次いで中国の制裁に踏み切った。ウイグル人の人権抑弾圧対する意思表示だ。トランプ政権は同盟国を無視する形で中国に対する強行路線を突っ走った。これとは反対にバイデン政権は同盟国や西側陣営、価値観を共有する民主主義国との協調を錦の御旗に掲げている。米中の外交トップレベル会合となった18日にアンカレッジ会談を振り返ればクワッド首脳会議(オンライン)、日米、日韓の「2プラス2」と手順を踏んで会談に臨んでいる。そして今回はブリンケン国務長官が欧州に飛び、NATO体制の立て直しを協議、EU首脳との会談を経た上で米国とEUが同時に中国に対する制裁に踏み切っている。まるで絵に描いたような同盟国との協調路線の演出である。何かにつけて揉めていたトランプ時代とは違って、関係各国の対応も前向き。中国包囲網が徐々に形成されつつある。

こうした流れの中で内心困っているのは日本政府ではなかろうか。バイデン大統領は相対で対面する最初の海外首脳として菅首相を選んだ。4月上旬には日米首脳会談がワシントンで実現する。菅首相にとっては安倍・トランプ関係と同様に米大統領との親密な関係を作る絶好の好機到来である。管・バイデン会談が好守備に終われば、その勢いを買って解散・総選挙なんてことも、永田町界隈ではチラホラ取り沙汰され始めているようだ。コロナ対策で後手を踏んだ菅首相に一条の光が差してきたような展開だ。だがちょっと待て。バイデン政権の当面の最大の課題はなんと言っても中国だ。その次が北朝鮮かもしれない。協調路線をベースとした中国包囲網の形成に日本は欠かせない。東南アジの安定のためにも日米の緊密な連携が必要だ。日本は対中国包囲網の鍵を握っている国でもある。

だが日本は、人権外交の重要性を理解しつつも、中国の経済力は無視できない。菅首相にも経済界から陰に陽に圧力がかかっているだろう。ウイグル問題での制裁も簡単に同調できない。そんな雰囲気がある。加藤官房長官はきのう「深刻に懸念し、中国側にも働きかけている」と説明、その一方で「(日本には)人権問題のみを理由に(制裁を)実施する規定はない」と、欧米との協調路線に慎重な姿勢を示している。この一連の流れから何を読み取ればいいのか。クワッド、2プラス2、米中会談、NATOとの対話、その結果として出てきた中国制裁。バイデン政権が協調する“協調”の衣の下に隠れているのは、日本に対する軍事力ならびに軍事負担の増強、人権外交に止まらず政治的な外交力の強化など、協調という名の主体的かつ積極的な外交戦略の策定要求ではないか。4月の首脳会談、日本にとって諸刃の剣になる可能性がある。