岸田首相は11日午前、菅前首相と官邸で会談した。時事ドットコムによると首相は「菅氏の在任中の新型コロナウイルス対応に謝意を示した上で、政権運営への協力を要請した」という。岸田氏と菅氏の関係は一般的には「不仲関係」とみられている。岸田氏が総裁選に名乗りを挙げた時点で菅氏の再任は事実上なくなったわけで、菅氏側に怨念が残っていると解釈されている。事実関係はよくわからないが、さもありなんというところだ。その菅氏を岸田氏はあえて官邸の玄関に出て送り迎えしている。忖度を遥かに上回る敬意の表明か、はたまた謝罪のシグナルか。“お公家集団”と揶揄される宏池会会長に似つかわしくない振る舞いだが、裏を返せば有象無象が蠢く永田町で泥にまみれる覚悟を表明したようにも見える。これで永田町はおもしろくなるかもしれない。

同じ日に安倍氏は、衆院議長に就任した細田氏に代わって派閥の会長に復帰した。細田派の安倍派への衣替えである。これまでも事実上の会長だったわけで、目新しいことはなにもない。だが、最大派閥の会長になることによって安倍氏の存在感はいやがうえにも増すことになる。永田町の空気にも微妙な変化を生むだろう。長期政権をになった安倍、麻生両氏が今度は自民党を牛耳る構図か。これに対して一部メディアは小石河連合に結束強化の兆しと報じている。ありそうな話だ。小石河連合は河野氏の支持基盤だが、菅氏とも重なっている。これに二階派がからめば安倍・麻生連合に対抗できるかもしれない。なによりも菅氏は公明党、維新と親しい関係にある。安倍長期政権は菅氏のこの人脈に負うところが大きい。この両党に人脈を持たない岸田氏が菅氏を玄関まで送り迎えする意味は明らかだ。

維新と国民民主党は国会で連携強化を図ることで合意した。両党とも憲法改正に前向きだ。空気を察するに敏な公明党は、「公明・北側氏『憲法審の毎週開催』、ずっと言っている」(産経新聞)と即座に反応した。野党も面白くなっている。立憲民主党の次期代表候補の一人である泉政務調査会長は、政策本意を掲げる国民の対応について「与党のシンクタンクでしかなく」と批判している。枝野路線を継承するという意思表明か。国会ではすでに来年の参院選に向けた勢力争いがはじまっている。安倍一強は「政治の劣化」を招いた。そこを踏まえて与党も野党も流動化しはじめている。ゆ党にも活躍の場が広がりそうだ。「政治の劣化、メディアにも責任」。きょうの朝日新聞デジタルは珍しく自省の記事を掲載している。その通り。政治の再興にむけてまずは「政治を楽しむ」。そこからはじまるものがありそうな気がする。