米中首脳会談が昨日行われた。オンライン形式だが、両首脳が顔を見ながら対面するのはバイデン大統領就任後初めて。会談は3時間半に及んだという。首脳会談としては異例の長さだ。さぞ中身の濃い会談だったと思うのが、メディアの報道を見るかぎりパッとしない。情報がストレートに公開されているのか疑いたくなる。メディアによっては伝え方にかなり温度差がある。ロイターはサリバン補佐官の発言にウエイトを置き、ブルームバーグは中国の発表に重点を置いている印象だ。NHKは首脳会談の事実をサラッと報道しているだけ。おそらくまだ詳しい情報が取れていないのだろう。個人的な印象では「戦略的安定に向けた協議」(NHK)に軸足を置きながら、中国は国内向け宣伝、米国は大統領の外交戦略、双方とも己の正当性を訴えるための宣伝活動に過ぎない気がする。

中国の発表を全面に押し出したブルンバーグの記事が、首脳会談にかける中国の思惑を一番よく伝えている。タイトルは「バイデン大統領と習主席、協力の必要性を議論-オンライン会談」とある。国営中央テレビ(CCTV)の報道を引用して両首脳が、「完全かつ徹底的な意思疎通を行い、戦略的かつ包括的で根本的な諸問題について意見交換した」と伝えている。CCTVの意図が透けて見えるようだ。習近平主席は米国のバイデン大統領と対等に渡り合った、これぞ我らが主席。そんな国内向けの宣伝臭がプンプンと匂ってくる。習主席は会談で「地球には米中両方の発展を可能にするだけの十分な余地があり、双方とも『勝者と敗者』のゼロサムゲームに従事すべきでない」と述べたという。核心となった習主席がバイデン大統領を諭している。これに対してバイデン大統領は「米国は中国の政治体制の変革を望んでおらず、台湾独立を支持することはない」と、従来の政策を繰り返したとある。事前のシナリオ通りの現実的な発言だ。

NHKは米国の発表を主体とした構成。「サリバン補佐官は、会談の中でバイデン大統領は『戦略的安定に向けた協議が必要で両首脳の主導のもと安全保障、テクノロジー、外交分野にまたがるチームが行うべきだ』と指摘した。そして両首脳は協議の開始を目指すことで合意したと明らかにしました」としている。どういうわけか中国側のコメントはない。ご丁寧に「バイデン大統領は戦略的な環境を整え万全の状態で会談に臨んだ」と補佐官の説明を引用している。これではまるでバイデン大統領が「万全」ではないとの巷の噂を追認しているようなものだ。宣伝合戦は明らかに中国の勝ち。戦略的であろうがなかろうが、協議の継続は事前の調整で決着がついていたはずだ。全世界が注目する中で両首脳は3時間半、何を話しあったのか。メディアの取材力が問われている。