年が明けてもう一週間が経過したというべきか、まだ7日しか経っていないというべきか。4日にソニーグループが発表したEV 子会社の設立は大袈裟にいえば今年最大のニュースだ。日経新聞によるとソニーグループは4日、電気自動車(EV)事業を担当する新会社を2022年春に設立すると発表した。米ラスベガスで開催中のテクノロジー見本市「CES」の会場で、吉田憲一郎社長が記者会見して発表した。新会社の名称は「ソニーモビリティ」で、本社は日本に置く見通し。発表した場所といい、日本の御用はじめにあわあせたタイミングといい、吉田社長の意気込みを世界に見せつけた格好だ。一昔前までソニーは世界をリードする電機機器メーカーだった。そのソニーはリーマンショック後に凋落。「2009年3月期からの6年間で累積1兆円の最終赤字を積み上げた」(日経新聞)。要するに急激な時代の変化に乗り遅れたのだ。

凋落の原因ははっきりしている。日経新聞は「『ウォークマン』で築いた携帯型音楽プレーヤーの牙城はアップルがダウンロード式の『iPod』を投入したことで崩れた。スマートフォンでも『iPhone』に太刀打ちできず継続課金プラットフォームを確保する戦いにも敗れた。豊富な要素技術を抱えながらイノベーション(技術革新)の端境期で繰り返し後手に回った」と分析する。まるでいまの日本を見るようだ。ピンチはチャンスとはよく言ったものだ。“世界のソニー”にあぐらをかいていた当時の経営者には、「先見の明」のかけらもなかった。ピンチに宿るチャンスを見抜く見識はまるでなかった。それはバブル崩壊を機に失速した日本経済と瓜二つにみえた。失速するソニーを踏み台にしてアップルは、時価総額世界一の巨大企業にのしあがった。そのアップルもEVへの新規参入を虎視眈々と狙っている。

日経新聞によると「ソニーの自動車開発は20年超の歴史がある」という。「01年の東京モーターショーではトヨタ自動車と共同開発したコンセプトカー『pod』を披露した。センサーが読み取った運転者の心理に合わせてヘッドライトが点灯するような『未来の車』を試作した。14年ごろには独自の試作車も完成していた」という。水面下で繰り広げた20年の努力を、新会社という形にして世に問うというのだ。その発表の場に選んだのが4日のラスベガス、テクノロジー見本市というわけだ。社内にはオミクロン株を理由に出席に反対する声もあったという。それを押し切って渡米した吉田社長。日経新聞は彼の行動を「アップルに先駆けて参入検討を表明し先手を打った」と表現する。自動車業界はいま100年に一度の変革期を迎えている。吉田氏は「車の価値を『移動』から『エンタメ』に変える」と意気込む。その心意気や良し。自動車産業が一段と面白くなってきた。