米債権市場できのう、10年国債の利回りが1.96%まで上昇した。世界中の中央銀行が目標とする物価目標(2%)に限りなく近づいていきた。金利は物価に連動して上がったり下がったりする。長期国債の利回り水準は金融当局が誘導しようとしている物価目標をもう少しで上回りそうな勢いである。連れて金融機関もさらなる金利の上昇を予測しはじめている。ブルームバーグによると「シティグループは10年債利回りが近く2%を超えると予想。マシューズ・インターナショナル・キャピタル・マネジメントは2.5%に向かうとし、JPモルガン・アセット・マネジメントは年内に3%を試す可能性もあるとしている」と伝えている。いまや「物価の上昇は一時的」とする説を支持する当局者やエコノミスト、有識者はどこかに影を潜めてしまったように見える。

だがいつの時代も世の中には天邪鬼のように大勢に逆らう人がいる。例えばゴールドマン・サックス・グループの元チーフエコノミスト、ジム・オニール氏だ。ブルームバーグ(BB)によると同氏は「各国・地域の中央銀行は過度に積極的な利上げを余儀なくされる。自らの信頼を取り戻すためだけに」と皮肉を飛ばしていると言う。BRICsの名付け親として知られる同氏はインフレ急加速について今週、「当局者は実際に何が起きていて、どうなるか全く分かっていない」(BB)と、金融政策担当者たちを厳しく批判している。今朝ニュースを読みながらこの言葉が妙に印象に残った。金融政策の決定権を持っている政策当局者だけではないだろう。為政者の多くが「実際に何が起きていて、どうなるか全く分かっていない」のではないだろうか。決断はすべからく「自らの信頼を取り戻すため」だけのもの。ふと、そんな気がした。

例えばパンデミック。世界中の国々でコロナの感染防止対策が講じられている。日本も例外ではない。岸田政権は予算委員会の集中審議でワクチンの接種目標を1日100万回とする方針を突如表明した。当初は菅前政権の金看板だった目標設定に批判的だった。ワクチン接種で後手に回っているとの批判が高まってきたことを受け、このところ頻繁に登場する手のひら返しである。最悪の事態をいつも念頭に置いていると言いながら、「実際に何が起こっているのか」わかっていなかったのではないか、そんな気がする。緊迫するウクライナ情勢。ここにきて各国首脳による対話が活発化している。外交による平和的な問題の解決、それ自体大賛成だ。だがどの首脳も支持率の低迷に喘いでいる。本音は「自らの信頼を取り戻すためだけにある」と見るのはひねくれすぎか。