ウクライナ情勢が先週後半から一気に緊迫の度を高めている。原因は米国。バイデン大統領とサリバン大統領補佐官が相次いで「ロシアが今週中にもウクライナに軍事侵攻する可能性がある」と警鐘を鳴らしたからだ。それだけではない。在ウクライナ大使館の職員に対して48時間以内に国外に退避するよう要請した。これを受けて英国やフランスも大使館員の国外退去に動き出した。サリバン氏は「攻撃の第一弾は空爆かミサイル撃の可能性がある」とまで言っている。ここまでくると誰もが「ロシアの武力侵攻にリアリティーがある」と感じる。これに対してロシアは、米国によるウクライナ侵攻説は「挑発、偽情報、脅迫だ」と反発、「ホワイトハウスのヒステリーはこれまで以上に顕著だ。アングロサクソンこそ戦争を必要としている」と主張した。

以上はロシア外務省のザハロワ情報局長が11日に行った発言である。ロイターが伝えている。米ロは12日に急きょ首脳会談を実施した。メディアの報道によるとバイデン大統領は「軍事侵攻した場合、米国は同盟国と共に断固として対応し、迅速で厳しい代償を負わせる」(時事ドットコム)と警告した。正直言って聞き飽きたセリフだ。時事通信は「両首脳は米ロ間の対話継続で一致したものの溝は埋まらず、緊張状態は続きそうだ」と分析している。これに対してロシアのウシャコフ大統領補佐官(外交担当)の発言が意味深だ。「バイデン氏が会談で示した欧州の安全保障に関する考えの多くは、ロシアが米国とNATOから受け取った書面回答に既に含まれていると説明。書面回答へのロシアの対応は近く発表すると語った」(時事ドットコム)という。首脳会談を呼びかけたのは米国だ。にもかかわらず新しい提案は何もないと言っている。この部分はロシアの言い分に理がある気がする。

外交交渉が活発化する中でウクライナのゼレンスキー大統領の発言も興味深い。同大統領はロシアの侵攻が差し迫っているというサリバン氏の警告に対しして、「(最大の敵は)ウクライナ国内のパニックだ。こうした情報はパニックを引き起こすだけで、われわれの助けにならない」と批判した。ロイターによると同大統領は13日にバイデン氏と電話会談した際、「数日中に首都キエフを訪れるよう求めた」という。「CNNによるとバイデン氏から前向きな反応はなかった」ようだが、コメディアン上がりのゼレンスキー氏ならではの提案だ。バイデン氏はホワイトハウスに閉じこもって口を動かすだけでなく、高齢に鞭打ってもっと体を張るべきだろう。本当に平和的な解決を願うなら、ロシアの懸念を受け止めた欧州の新しい安全保障のあり方を模索すべきだ。それをせず切迫情報だけを意図的に流しているとすれば、米国の情報戦略はイラク戦争の二の舞になりかねない。