けさこのニュースを見て一瞬目の前がパッと明るくなった。最初に見たのはロイター。「ロは数週間で『力尽きる』、ウクライナに反撃機会=英MI6長官」。英情報機関トップがロシアは数週間で「力尽きる」と発言したという。最初「えっ・・・」と思った。だが世界に名だたるM I6長官の発言である。フェイクではないだろう。期待が膨らんだ。大ニュースだ。それにしては記事が短い。中身も濃くない。気になって他のメディアも当たってみた。日本のメディアにはほぼ同じ趣旨の記事が掲載されている。ブルームバーグには確認した限りこの記事はない。結論的に言えばこの記事は、見出しが過激の割に中身がない。ムーア長官はロシア軍の消耗が激しく、「今後数週間のうちに何らかの形で作戦を休止し、ウクライナに重要な反撃機会を与える可能性が高い」と言っているだけだ。とすれば、すでに色々な人が同じ指摘をしている。新しい事実はない。見出しだけが踊っている。

よくある記事と言えばそれまでだが、ロイターにしてはちょっとやりすぎだ。少なくとも中身に沿った見出しをつけるべきだ。特に問題だと思うのは「力尽きる」というフレーズだ。長官が本当にそう発言したのか、確認できなかった。日経新聞によると長官は、ロシア軍に多大な人的被害が出ていると指摘しているだけで、「力尽きる」という表現は見当たらない。見出しをつけたデスクが想像を膨らませて事実を過大解釈したのだろう。フェイクとは言えないが情報操作の類いだろう。メディアは無意識のうちに平気でこういうことをやる。もちろん意識的にやることもある。読者としては要注意だ。もう一つの大ニュースはウクライナの穀物輸出再開のニュースだ。トルコ政府によると、穀物輸出再開に向けた国連主導の計画の署名式が、日本時間22日午後10時半からイスタンブールのドルマバフチェ宮殿で行われる予定とある。

トルコが中心になって進めてきた交渉がまとまったというニュースだ。グッドニュースであることは間違いない。各メディアとも事実を淡々と伝えている。気になるのは米国とウクライナの反応だ。ロイターによると米国はこの件に関し輸出再開を歓迎しつつも、「食料を武器にするというロシアの意図的な決定だった」(国務省プライス報道官、ロイター)と非難している。さらにロイターはウクライナとロシア政府の「確認は取れていない」と、わざわざ書いている。関係者が本当に同意しているのか、読む側としては不安になる。メディアはフェイクも印象操作を避けるべきだが、確認が取れるまで流さないとなると、いつまでも配信できなくなることもある。ここがメディアの悩みの種だろう。「確認が取れない」という情報を盛り込んで、読者も判断に委ねることになる。あとは読者がどう読むかだ。