今週は米国、ECB、日銀と主要中央銀行の金融政策決定会合が相次いで開かれ、さながら金融政策のゴールデンウィークともいうべき状況になった。25日に終了したFOMCでは2会合ぶりに政策金利が0.25%、27日のECB理事会でも同率の引き上げが実施された。最後をかざった日銀は27日から金融政策決定会合を開催し、28日には植田総裁が記者会見をする予定となっている。前2者の会合はほぼ事前の予想通り、大きな波乱もなく終了した。植田総裁が事前に示唆していた異次元緩和継続で決定会合の結論をまとまれば、金融政策ゴールデンウィークは平穏無事に終了する予定だった。だがこの流れを日経新聞が断ち切った。27日未明、「日銀、金利操作を柔軟運用 上限0.5%超え容認案」と題する“特ダネ”を配信したのだ。これを機に日本の真夜中にニューヨーク株が急落、円相場が急騰するという波乱の展開となった。

日経のWeb版によると「日銀は28日に開く金融政策決定会合で長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の修正案を議論する。長期金利の操作の上限は0.5%のまま据え置くものの、市場動向に応じて0.5%を一定程度超えることも容認する案が浮上している」とある。金融政策決定会合は27日と28日の2日間にわたって開催される。記事はわざわざその谷間をねらって配信された。この記事の狙いは何か?ソースは誰だろう。敏腕記者の独自ネタか、日銀関係者のリークか。さまざまな疑問が頭をよぎった。YCC修正の思惑は会合前から市場関係者の間で渦巻いていた。これを意識するかのように植田総裁は直前の26日、月例経済報告関係閣僚会議に出席し、「引き続き企業にとって緩和的金融環境を維持していく」(ロイター)と述べたと伝えられた。

市場で渦巻くYCC修正の思惑、これを否定するかのような総裁の発言。双方の認識の違いを狙い撃ちにした日経新聞。記事は「柔軟運用」「容認案」「議論する」と書いてあるだけで、決定したとも方針を決めたとも書いてない。金融政策決定会合だからさまざまな論点について議論するだろう。その意味で記事はごく当たり前のことを書いているに過ぎない。とはいえ、これを書くには信頼できるソースによる、確かな情報が必要になる。ひょっとするとこれは確かなソースによるリークの可能性だってある。植田総裁は就任当初から市場との対話を重視する姿勢を示してきた。市場と対立しサプライズ優先だった黒田前総裁の轍を踏まないこと、同総裁のテーマの一つだ。仮に日経の記事がなかったとすれば、今回の決定会合はちょっとしたサプライズになり、総裁の公約違反となる。それを回避するための“誘導記事”、純粋な記事とは程遠い、思惑含みの匂いがする。(10時55分記)