日銀の金融政策決定会合が昨日から開かれている。きょう結果が発表され、午後には植田総裁が記者会見する。おそらく大きな変更はないだろう。植田体制になって異次元緩和の修正が意識されており、時間をかけて金利の引き上げが実施されると思うが、10年以上続いてほとんど効果がなかった異次元緩和を修正するのは並大抵のことではない。植田総裁の手腕が問われるが、日本の支配者層に共通する認識はいまだにデフレだ。そんな中で、個人的に注目すべきコラムがきのうロイターに掲載された。「コラム:新NISA、外貨買い誘発し『貯蓄から逃避』の契機になるのか=唐鎌大輔氏

」とタイトルされている。みずほ銀行、チーフマーケット・エコノミスト・唐鎌大輔氏によるコラムだ。ひとことで要約すれば、「家計の円売り」が加速しており、円安は続くという内容だ。

唐鎌氏の試算によると、2024年にスタートした新NISAによる「家計の円売り」は年間で「7−9兆円程度」に達するとしている。旧NISAが始まったのは2014年1月。このあと投信経由での対外証券投資は2014年から2023年の平均で「年間3.6兆円程度」、2014年から2019年の平均では「同3.4兆円程度」となっており、「7−9兆円程度」がいかに大きいかわかる。ちなみに2023年は年間で「4.5兆円程度」に増えている。このままのペースでいくと今後のこの数字はもっと増えると唐鎌氏は予測している。その理由について同氏は運用を担うコアゾーンにとって「円高の歴史」は当たり前ではなくなっており、「投資ではなく防衛としての資産運用を検討する動きは、過去の世代よりも強いと思われる」としている。要するに経済の実情を深く理解している投資家が増えて、「円売り」が加速すると言うわけだ。

かつて何かあれば「安全資産」として円が買われた。だが安倍・黒田コンビが始めた異次元緩和によって円安が常態化。資産の運用に通じた世帯が運用の主体になれば、「円売り」が合理的な選択肢になるのは当然だろう。見方を変えればこれは、日本を支える中核世帯が日本を売り始めたということだ。中国で人民元安が止まらないのと一緒だろう。円安は景気を回復させ、税収が増え、日本経済が復活したかのように錯覚させる効果を持つ。運用大国を目指す岸田総理にとっては目先願ってもない現象だ。「日本経済は回復しつつある」、さも自分の功績のように国民にアピールすることができる。だが長い目で見れば企業は競争力を失い、庶民は物価高に怯えながらの生活を余儀なくされる。中小企業だけではない。大企業も物価を上回る賃上げに二の足を踏むだろう。誤謬(ごびゅう)だらけの金融政策が日本の負の連鎖を後押ししている。日銀がデフレに誘導しようとしている。