Sony Kapoor

Photographer: John Moore/Getty Images

リーマン・ブラザーズが破綻してもうすぐ10年、「サプライズの夏」をまた迎えやしないか市場は落ち着かない季節になった。安心して夏休みに入るためにも、脆弱(ぜいじゃく)性がどこにあるかリスク管理上把握しておきたい。リーマン・ショック前夜に比べて、世界経済はもっと危険な世界になっているのか、4つのエリアで検証してみた。

過去最高の債務水準と質の劣化

国際決済銀行(BIS)が繰り返し警告していることだが、世界の債務は過去最高に積み上がっている。質の劣化も心配される。ソブリン・民間合わせた債務総額は237兆ドル(約2京6200兆円)と、リーマン前を70兆ドル上回る。このうちAAA格付けを維持しているのはソブリン11カ国、米企業2社のみで、平均値でみた信用の質は低下を続けている。金融政策の正常化が債務コストを押し上げることも予想される。米国の公的債務は対国内総生産(GDP)で2008年に65%程度だったが、今では105%を超えており、さらに上昇が予想される。ユーロ圏の対GDP債務比率も上昇しており、各国の財政には深刻な不況を阻止するために必要不可欠な財政投入の余地が大きく縮小している。

金融政策の対応余地

量的緩和(QE)は主要中央銀行のバランスシートを前代未聞の15兆ドルに膨張させた。政策金利はいまだ過去最低に近い。中には依然マイナス金利の国もある。ショック再来の場合、金融政策で積極的に対応する余地は限られている。リセッション(景気後退)が深刻な不況に変容するのを防いだ大胆な金融政策は、もう繰り返すことができない。QEが巻き戻され金利正常化が進む現状ではむしろ、2013年のテーパータントラムでわれわれが目撃したように、金融政策が波乱の原因になる可能性さえある。

政治的な混乱

2008年には強固だった政治的安定は、ほとんどの主要国で著しい混乱に陥った。過去の危機への反動もあり、極右と極左の両方でポピュリズムが台頭。危機後の失われた10年に実質賃金は伸びず、経済面などで不安が強まったと感じる有権者は多い。欧州ではこれまで脇役だった弱小政党が今では議会で存在感を増し、過半数を制する政権の維持が一段と難しくなっている。

弱まる国際秩序と信頼の欠如

国際的な秩序が弱まり、信頼が失われつつある。特にトランプ政権はG7やG20といった仕組みの中で協調性を示さないばかりか、危機への対応で不可欠なこうした枠組みを破壊する方向に積極的だ。恐らくもっと警戒するべきなのは、ポピュリストの台頭で欧州連合(EU)内の常識ある政治センターの存在感が薄れていることだろう。英国のEU離脱だけでなく、移民政策を巡る東西分断、イタリア新政権などを見ても、EUの政治問題が深刻化していることがうかがえる。

確かに2008年に比べて銀行は強固になり、危機対応の手段も充実している。しかし財政と金融政策の余地が縮小し、債務が過去最高水準に膨張、政治的安定が崩れ、戦後のリベラルな世界秩序が破壊され、貿易戦争が迫る状況は、全ての面においてぜい弱さが増していることを意味するかもしれない。

(ソニー・カプーア氏はシンクタンク、リディファインのマネジングディレクター。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Four Big Risks to Watch 10 Years After Lehman: Sony Kapoor(抜粋)