[東京 26日 ロイター] – 日本列島を襲った今月の猛暑が、真夏の東京五輪開催に対する懸念を高めている。この時期は通常、1年の中で気温と湿度がもっとも高く、出場選手や観客に健康被害をもたらす恐れがあるからだ。

1964年に初めて東京で夏季五輪が開催された時期は、比較的涼しくて湿度も低い10月だった。4年後のメキシコ五輪も同じく10月に行われた。

だが過去30年にわたり、ほとんどの夏季五輪は7、8月に開催されている。テレビ局が大会を取材する上で理想的な時期と考えているからだ。

この時期は五輪以外に世界的なスポーツイベントが少なく、テレビ局はより多くの視聴者を獲得しようと数十億ドルの放映権料を支払う。

「IOC(国際オリンピック委員会)は、夏季、冬季五輪の開催時期について、米テレビ局の希望をよく分かっている」と、元CBSスポーツ社長のニール・ピルソン氏は話す。同局は1992年、94年、98年の冬季五輪を米国で放送した。

「夏季五輪が10月開催となると、単純にその価値が薄れる。その時期にはすでにさまざまなスポーツ大会の契約が存在するからだ」と同氏はロイターに語った。

IOCは、2020年夏季五輪の立候補都市に対し、7月15日から8月31日までの間に開催することを求め、東京は7月24日から8月9日を開催期間とした。

日程は、スケジュールが重ならないよう各スポーツ国際連盟から意見を聞いて決定されている。

<ゴールデンタイム>

スポーツイベントが閑散期だからという理由からも、五輪の開催時期は選ばれていると、テレビのスポーツマーケティング専門家は指摘する。公式五輪記録もそれを裏付けている。

9月あるいは10月に五輪が開催される場合、米国では、ナショナルフットボールリーグ(NFL)のシーズン開幕や野球の大リーグ(MLB)プレイオフといった他のスポーツイベントと視聴者を取り合うことになる。欧州でもサッカーシーズンの序盤と重なる。

立候補都市は代替日を提案できるが、必ずしも認められるとは限らない。中東カタールの首都ドーハが2020年夏季五輪に立候補したとき、7、8月は暑すぎるとして10月開催を提案した。だが、オリンピック放送機構(OBS)とIOCテレビジョン・アンド・マーケティング・サービスSAは、2012年4月に公表されたオリンピック作業部会の報告書の中で、そのアイデアに批判的な反応を示した。

「五輪大会がIOCの推奨する7、8月に開催されれば、ゴールデンタイム視聴率の首位を獲得する『お墨付き』を放送局に与える」と同報告書は説明。「10月の開催では、放送局は低い視聴率に直面することになる」

IOCに76億5000万ドル(約8500億円)を支払い、2032年まで米国における独占放映権を獲得することに2014年合意したNBCはコメントを拒否した。

2015年にユーロスポーツを買収し、13億ユーロ(約1680億円)で2024年パリ大会に至る4大会を欧州全土で放送する権利を獲得したディスカバリー・コミュニケーションズ(DISCA.O)もコメントしなかった。

五輪日程の決定後、競技スケジュール作成中に放送局からの情報提供を受けている、とIOCでメディア広報マネジャーを務めるミカエル・ノワイエル氏は電子メールで語った。

夏季五輪の開催時期を7、8月と定めたのは2000年大会からだと同氏は説明。「2020年東京大会の開催時期に異論は出なかったため、利害関係者が相談を受けることはなかった」という。

<理想的な気候>

ほとんどの夏季五輪は1976年以降、7,8月に開催されており、暑さ対策を迫られる開催都市もある。

例外が認められたケースもある。2000年のシドニー大会は、南半球の気候に慣れるため9月後半の2週間に開催された。

提案した開催時期について、東京の立候補ファイルは、「晴れる日が多く、かつ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である」とアピールしている。

日本は今月、記録的な猛暑に見舞われ、五輪開催時期の気温について懸念が高まっている。

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埼玉県熊谷市では23日、気温41.1度を記録し、国内最高記録を更新。総務省消防庁によると、22日までの1週間で少なくとも65人が熱中症で死亡した。これは2008年に集計が開始されてから最多となっている。熱中症による救急搬送も2万2647人に上った。

だが気象庁のデータによれば、過去20年における7月最後の10日間と8月最初の10日間の平均最高気温は、約32度となっている。

東京五輪のマラソンコースに基づき、2016年と17年の7月後半と8月に気温や湿度などのデータを集計した国際的な研究チームは、選手や観客が熱中症になるリスクが高い状況となる可能性を警告。日陰のエリアを増やすよう、大会組織委員会に提言している。

同研究に携わり、緑地環境計画が専門の横張真・東京大学教授は、五輪史上で、東京が最悪のコンディションになりかねないと、東京大会のマラソン競技について警鐘を鳴らした。

組織委は、こうした警告を真摯(しんし)に受け止め、マラソン開始時刻の午前7時半から同7時への前倒しを発表。また、マラソンコースや他の主要道路に太陽光の赤外線を反射する遮熱性の塗装を行い、温度を下げるとしている。

組織委はまた、暑さ対策として、テントや冷風機などの設置を検討しているという。