米中両国の事務レベル貿易協議が22日から米国で開かれる予定だが、双方の主張は依然として隔たりが大きく、摩擦解消につながるかは不透明だ。今春に始まった米中貿易戦争は、すでに中国経済にダメージを与え始めた。「中国に勝ち目はなく、はやく失敗を認めて、事態を収束すべきだ」との厳しい見方も中国国内でくすぶっている。

2期目の習近平政権が発足した直後の3月23日、中国商務省は米国による鉄鋼・アルミ製品への追加関税措置への報復として、128品目の米国製品に対し追加関税を課すと発表。問題がエスカレートした。

中国の官製メディアは「われわれはいかなる戦争も恐れていない」と強気な姿勢を崩していない。ただ、対米輸出に依存している中国経済が米国と全面対決することは「無謀な戦い」とみる投資家も少なくなく、中国の金融マーケットは敏感に反応した。

株式市場では3300ポイント前後だった上海総合指数が3月末から下落し、8月中旬には2600ポイントと約20%も下げた。人民元の為替相場も対ドルで10%近く急落した。中国は近年、経済成長率が前年比6~7%で推移している。為替相場が下落すれば輸入コストが大幅アップするなど、成長率を押し下げる要因になる。

「中華民族の偉大なる復興」とのスローガンを掲げ、経済規模で米国を追い越すことを夢みる習政権にとって、打撃は大きい。

広東省や上海周辺で、米国からの発注激減にともない、生産停止に追い込まれる工場も出ている。中国は報復措置として、米国産大豆に高い関税を課したが、中国国内の家畜飼料は米国産大豆に依存しているため、飼料のコストが増大。7月以降、北京など都市部の豚肉の価格が高騰し、市民生活にも大きな影響が出始めている。

一方で、中国が追加関税を課す米国製品は農業分野に集中していることもあって、貿易戦争が米国経済に与える影響は今のところは限定的。ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均はこの間、むしろ5%前後上昇している。

中国の著名な経済評論家、賀江兵氏は香港メディアに対し米中貿易戦争について「勝ち目がない」と強調した上で、「いまの状態が今後2カ月以上も続くと、中国の経済は壊滅状態に突入する」と指摘し、中国当局に対し早期解決を訴えている。(矢板明夫)