月刊誌「新潮45」が性的少数者(LGBTなど)を「生産性がない」などと否定する杉田水脈衆院議員の寄稿を掲載し、更に最新10月号で擁護する特集を組んだ問題で、発行元の新潮社は21日、「あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現が見受けられた」と認める佐藤隆信社長名のコメントを発表した。この問題で社としての見解を公式に示したのは初めて。明確に謝罪はしていない。

 コメントでは「言論の自由、表現の自由、意見の多様性、編集権の独立の重要性などを十分に認識し、尊重してきた」と説明。その上で10月号の特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」の「ある部分」に問題があったと認め、「今後とも、差別的な表現には十分に配慮する所存です」と続けている。「ある部分」が何を指すかは明らかにしていない。

 杉田議員は同誌8月号に寄稿した。内容への批判を受け、最新号は擁護特集を企画。文芸評論家の小川栄太郎氏がLGBTが生きづらいなら痴漢も生きづらいなどと主張し、「彼らの触る権利を社会は保障すべきでないのか」などと書いていた。

 この問題を巡っては、新潮社と接点がある作家らからも「差別に加担している」と批判の声が上がり、また同社の文芸部署もインターネット上で「45」への否定的な見方を示唆するなど、社内でも異論が起こっていた。【大原一城】

「トップの認識」評価

 性的少数者を支援する全国組織「LGBT法連合会」の神谷悠一事務局長は、「常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現」と認めた点について「8月号、10月号と多くのLGBT当事者や家族らが傷つけられたので、トップの認識として示されたのは良かった」と評価した。一方で「紙媒体にはネットとは違う重みと信頼がある。その出版社内で多くの社員の目を通る過程を経て出版されたことにも傷ついた。その点はよく考えてほしい」と指摘した。【藤沢美由紀】

コメントのしようがない

 特集に寄稿した教育研究者の藤岡信勝・元東京大教授の話 新潮社が言う「ある部分」がどこなのか言ってもらわないと、コメントのしようがない。「新潮45」に掲載された論文を批判するのはいいが、出版社に圧力をかけたり、当該号の流通をストップしたりするようなことがあれば、言論の自由に反する許されない行為だ。新潮社がそうした動きに屈服することがないよう希望する。

新潮社 社長コメント全文

 弊社は出版に携わるものとして、言論の自由、表現の自由、意見の多様性、編集権の独立の重要性などを十分に認識し、尊重してまいりました。

 しかし、今回の「新潮45」の特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」のある部分に関しては、それらを鑑みても、あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現が見受けられました。

 差別やマイノリティの問題は文学でも大きなテーマです。文芸出版社である新潮社122年の歴史はそれらとともに育まれてきたといっても過言ではありません。

 弊社は今後とも、差別的な表現には十分に配慮する所存です。

 株式会社 新潮社

 代表取締役社長 佐藤隆信