シンガポールで記者会見、日本側をけん制
ロシアのプーチン大統領は15日、前日の日露首脳会談で「日ソ共同宣言」(1956年)に基礎を置き平和条約交渉を加速化させると一致したことに関連し、歯舞群島と色丹島の2島の引き渡しについて「どのような基準が設けられて、どちらの主権になるのかが記されていない」と述べた。2島の主権も今後の交渉対象となるとの認識を示し、2島の引き渡しも既定路線ではないと日本側をけん制した形だ。訪問先のシンガポールで記者会見し語った。
共同宣言は「平和条約締結後に歯舞、色丹両島を日本に引き渡す」と明記。プーチン氏は、安倍晋三首相が14日の首脳会談で日ソ共同宣言を出発点として平和条約交渉に臨みたい意向を伝えてきたと明かした。宣言は2島の引き渡しに関する詳細に触れていないことから「不明確な点も多い」との認識を強調している。日本政府側は、共同宣言を基礎に2島の返還を確保して、共同宣言に書かれていない国後、択捉両島の帰属問題を詰めるアプローチに軸足を移した形だが、今後の交渉難航は必至だ。
かつてのプーチン氏は日ソ共同宣言が有効であると明言していた。しかし、最近は、旧ソ連と日本の議会がそれぞれ批准しておきながら日本が宣言内容の履行を拒絶したとの認識を繰り返し示している。会見でも「日本が履行を拒絶したことから、この状態が続いている」と言明。ロシアとして慎重に取り組む姿勢を強調した。
一方、菅義偉官房長官は15日の記者会見で、会談について「非常に意義がある。今後の日露関係のさらなる進展に弾みを与える有意義な会談だった」と評価。今後の北方領土を巡る交渉について「実際の返還時期や態様については柔軟に対応するとの方針を維持してきた。4島の帰属問題を解決し、平和条約を締結する立場に変更はない」と述べた。
首相は来年1月下旬にも訪露して本格交渉を進め、来年6月のプーチン氏訪日をめどに領土問題と条約締結に向けた道筋をつけるスケジュールを描くが、首相に近い関係者からも「ロシアの世論の反発は強く、歯舞、色丹の2島返還でもロシアにとっては譲歩だ」との声が漏れる。【光田宗義、モスクワ大前仁】