注目されていたG20が終了した。懸念されていた米中の貿易摩擦は追加関税の応酬という最悪の事態は回避されたものの、問題を先送りしただけという結果になった。知的所有権やサイバーセキュリティーなど米側が要求する懸案事項は引き続き両国で協議するとされている。ただ、中国は触れていないものの、協議期間は米国によると90日に限定されている。この間に両国の話し合いがまとまらなければ、米国は中国からの輸入製品に対する関税を25%に引き上げるとしている。この協議はいつから始まるのかはっきりしないが、3ヶ月という期間は問題の解決にとっては決して十分ではない。米国が問題視しているのは習近平主席にとって死守すべき一戦ともいうべき、「中国製造2025」に関わっている。協議の結論は見えているような気がする。

日経新聞は今回のG20における米中の首脳会談で明らかになったのは、米国内における対中強硬派対国際協調派の「溝だ」と指摘する。対中強硬派はライトハイザー米通商代表部(USTR)代表、ナバロ米大統領補佐官ら。G20の出発直前に大統領執務室に招かれたのは保守系シンクタンク、ハドソン研究所の中国専門家、マイケル・ピルズベリー氏だ。国防総省の要職も務めたピルズベリー氏は「中国は米国を追い抜くために合法・非合法であらゆる手段を講じている」と徹底した中国批判で知られている。クシュナー上級顧問もこの席にいたという。ここでトランプ大統領は対中強硬派の動向を叩き込まれたのだろう。それでも今回の首脳会談ではムニューシン米財務長官ら国際協調派に同調した。それが90に日間という時間的猶予である。

だからと言って対中強硬派がこのまま矛を収めるとは思えない。ピルズベリー氏が所属するハドソン研究所はペンス副大統領が少し前に対中政策の基本的な考え方を演説した研究所である。ペンス氏はそこで米中貿易摩擦だけではなく「中国製造2025」に象徴される中国の覇権奪還に向けた活動に警告を発している。米国からみれば中国は、米国を出し抜いて世界の覇権を握ろうとしている敵対国なのである。問題は貿易赤字にとどまらない。覇権争いなのである。米国が要求する「中国製2025」の廃止を習近平主席が飲めば、中国内における習主席の権力基盤は一気に崩壊する。要するに中国が飲めない要求を米国は突きつけている。猶予期間は90日である。誰が見ても問題が簡単に解決するとは思えない。