聞き手・ニューヨーク=江渕崇
「現代金融理論(MMT)」を提唱する米ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授=2019年4月15日、ニューヨーク市、江渕崇撮影
今、アメリカを席巻している経済理論「MMT(Modern Monetary Theory、現代金融理論)」。経済の実力を最大限に発揮させるために、政府は財政赤字など気にせずもっと大規模な支出してもいい、との主張で、今や経済論争の主役だ。その「伝道師」ともいえるニューヨーク州立大教授のステファニー・ケルトン氏が朝日新聞の単独取材に応じた。巨額の財政赤字を抱える日本でも財政破綻(はたん)の懸念によるインフレは起きておらず、米国もそこから学ぶべきだという。「異端」の理論が説くバラ色の未来は本当に実現するのか。
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財政支出で完全雇用を
――政府支出の原資を税金で賄う必要はないとの立場ですね。
「私たちは、税金が政府の収入を得る手段だとは考えていません。ドルを発行できる米国政府は、ドルを得るために課税しなくてもいい。税金の役割の一つは、政府が経済につぎ込むお金の総量を調整し、インフレを抑えることにあります」
「MMTは銀行がどう機能するのかや、金利がどう決まるのか、政府の債務が経済で果たす役割やリスクへの評価など、あらゆる点で既存の経済学とは異なります」
――巨額の財政赤字を出し、政府は何をすべきだと?
「政府支出を増やせば失業者が経済活動に戻り、生産量も増えます。財政赤字はしばしば、その国が実力以上の暮らしをしている証しだとみなされます。しかし実際は米国も日本も、人材や資源をフル活用できておらず、実力よりもだいぶ低い生活水準に甘んじています。インフレが怖いからと完全雇用を目指さないなら、失業の経済的・社会的コストはどうなるのでしょう」
――トランプ政権の大型減税は評価しますか?
「反対でも賛成でもないですね。ただ、トップ1%に多くの恩恵が行き、間接的な刺激策となる減税よりも、その分をインフラや教育、研究開発などに投資していれば、簡単に4%成長を達成できたでしょう。生産性を高め、長期的な成長につながるものに政府が直接支出するのが減税よりも好ましい」
「金融危機のあった2008年、何百万もの人々が職を失っていました。もしその時点に戻ったとすれば、3年間で1兆ドル(約110兆円)のインフラ投資をして、税率をまったく上げなくてもよいと簡単に言えたでしょう。その政府支出は、インフレの心配を一切することなく経済が吸収できたと信じています」
「今、同じような野心的な支出プログラムを米議会が決めるにあたっては、だれも考えてこなかったインフレリスクを考慮する仕組みがよいと思います。もし1兆ドルの支出が、人々が許容できないほどのインフレを招くようなら、支出の半分は税金で賄うといった手が考えられます」