【ワシントン時事】トランプ米大統領は7日、不法移民問題を理由に打ち出したメキシコ産品への制裁関税の発動を「無期限に見送る」と表明した。来年秋の大統領選をにらみ看板政策で強い姿勢をアピールしたが、関税上乗せによる輸入品の値上がりは米経済に悪影響を及ぼすと国内から突き上げの声が噴出。5月30日の制裁発表から1週間余りで矛を収めた形だ。

 移民対策として貿易面で制裁的な関税を課すのは極めて異例。トランプ氏は米国への移民流入を阻止する「強力な措置をのませた」と関税圧力の効果を誇った。だが、両国が7日に合意した共同宣言のうち、米国での難民申請者をメキシコが一時的に引き受ける措置は昨年合意済みこれを今回拡充したにすぎず、焼き直しの側面もある。

 トランプ氏が目玉施策で妥協してまで事態の収束を図ったのは、国内からの反発が政権への打撃になると判断したためだ。米国にとってメキシコは中国に次ぐ輸入相手国。米産業界や農業などの計140団体は7日に声明を出し、「米消費者、労働者、農家、あらゆる業種の企業を傷つける」と関税発動に強く反対した。

 貿易摩擦の長期化で米景気の先行き不透明感は急速に強まっている。7日に発表された5月の雇用統計で就業者数の伸びは急減速し、早期の利下げ観測が台頭。米商工会議所の試算では、トランプ氏の計画通りメキシコからの全輸入品に最大25%の関税を課せば、米業界に最大860億ドル(約9兆円)の負担が生じる恐れがあった。

 高関税という手法自体に身内の共和党も不安を募らせており、支持基盤である農業州は報復関税を強く警戒する。同党上院トップのマコネル院内総務は「メキシコ関税への支持は党内にそれほど広がっていない」と早々に距離を置き、トランプ氏の選択肢は政治的にも限られていた