日本が韓国に対する輸出管理を厳しくした措置が議題になったWTO=世界貿易機関の一般理事会では、両国の主張は大きく食い違い、改めて対立が浮き彫りになりました。日韓両政府はいずれも加盟国の理解は得られたと受け止めていますが、会合で加盟国からの発言はなく、今後、国際社会でどのような反応が広がるかが焦点になります。
スイス・ジュネーブで開かれたWTOの一般理事会では日本時間の24日、日本が韓国に対して半導体の原材料などの輸出管理を厳しくした措置が議論されました。
韓国政府が日本の措置の背景には「徴用」をめぐる政治的な思惑があり、国際的な貿易体制に打撃を与えると訴えたのに対し、日本政府は過去の問題には関係なく、安全保障の観点から輸出管理の運用を見直したものでWTOのルールに沿っていると反論して、両国の主張は大きく食い違い、改めて対立が浮き彫りになりました。
日韓両政府はいずれも加盟する160を超える国と地域に直接訴えたことを通じて理解は得られたと受け止めています。ただ、会合ではほかの国からの発言はなく、最後に議長を務めるタイの大使がまずは2国間で友好的な解決策を見つけることを望むと述べ、議論を終えました。
WTOの一般理事会は日本の措置の是非について判断する場ではありませんが、韓国が準備を進めているWTOへの提訴は、加盟国の支持が欠かせず、今後、国際社会でどのような反応が広がるかが焦点になります。
韓国 キム新通商秩序戦略室長「直接対話を日本が拒否」
WTOの一般理事会に、韓国政府の首席代表として出席していたキム・スンホ新通商秩序戦略室長は24日、日本が韓国に対する輸出管理を厳しくした措置をめぐる議論が終わったあと、報道陣の取材に応じました。
この中で、キム室長は、「日本の措置は世界経済に混乱をもたらし、また、『徴用』をめぐる問題で外交的に優位に立とうというねらいがある。日本に対して、措置の撤回を強く求めた」と述べ、今回の会合で改めて措置の撤回を求めたことを強調しました。
また、WTOへの提訴については「決定はしていないが、準備はしている」と述べ、改めて提訴を検討していると説明しました。
また、キム室長は日本政府が派遣した外務省の山上信吾経済局長に直接対話を行うことを提案したものの、日本から明確な理由もないまま断られたとして不快感を示しました。
そのうえでキム室長は、会合の中で、参加各国に対して、日本と韓国が直接対話をする提案に反対するか尋ねたところ、どの国からも反応はなかったとして、韓国側の提案が支持を得たという認識を示しました。
多国代表団「大事なのは解決策を見つけること」
WTOの一般理事会で24日に行われた日本の韓国に対する輸出管理の強化をめぐる議論を受けて、カメルーンの代表団の男性は「国と国との間では、常に複雑な問題があるが、大事なのは解決策を見つけることだ。日本も韓国も賢い国なので、きっと解決策を見出せるだろう」と述べ、対立の緩和に期待感を示しました。
一方、ウルグアイの大使は「日本と韓国がお互いを理解しあえる方法を見つけてほしいと願っている。現時点では2国間の問題だ」と述べ、まずは日本と韓国の間で解決すべきだという認識を示しました。
韓国側 撤回求めたことなどを発表
韓国産業通商資源省は24日夜、WTOの一般理事会で、日本が輸出管理を厳しくした措置について、撤回を求めたことなどを、報道資料を通じて発表しました。
それによりますと、韓国側の首席代表のキム・スンホ(金勝鎬)新通商秩序戦略室長は、日本の輸出管理の強化について、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる両国の争いに起因していると説明したということです。
キム新通商秩序戦略室長は「政治的目的から世界の貿易を混乱させる行為はWTOの土台である多国間の貿易秩序に大きな打撃を与える」として厳重に警告したということです。
さらに「G20大阪サミットの議長国として、自由かつ公正な貿易を強調した日本が、正反対の措置を韓国だけにとったことに対して抗議した」としています。
その上で日本の措置について「韓国の核心産業である半導体産業を意図的に狙っているが、国際的な分業体制上、全世界の産業と生産にまで影響を与える危険性がある」と強調して、撤回を求めたということです。
また韓国側は日本の輸出規制をめぐり再三、局長級協議を求めたほか、今回の一般理事会にあわせてジュネーブで2国間協議を行うことも求めたものの、日本側は従来の立場を示すにとどまり、協議に応じる姿勢を見せなかったとして、「強い失望感を表し、強く批判した」としています。
韓国側の発表によりますと、こうした日韓の議論に対して、一般理事会に出席した各国は日韓の対立が激しくなっている点を考慮してみずからの立場を表明せず、一般理事会の議長国も「両国の友好的な解決策を探すことを望む」との考えを示したとしています。
ただ、韓国産業通商資源省は、WTOの実質的最高機関である一般理事会で「日本の措置の問題点を伝えるとともに、日本の非協力的な態度を浮き彫りにできた点は、意義がある」と評価していました。
その上で「今後も日本の措置の問題点を継続的に定義し、WTOへの提訴を含め、必要な対応措置をとっていく予定だ」としています。
アメリカの輸出管理は
アメリカは自国企業の製品や技術が、最終的な到着国で核兵器やミサイルなどに移転されることを警戒し、独自の監視体制を設けています。輸出を管理する商務省は、輸出国を懸念の度合いによって原則4つのグループに分けて手続きや規制を設けていて、韓国については日本やイギリスなどと同じ、もっとも懸念が低い国と位置づけています。
また、韓国の輸出体制について商務省はこれまでのところ、問題があるという見解は示していません。一方、韓国側は今回の問題の発生以降、政府高官をワシントンに派遣するなど、外交攻勢を強めていて、アメリカに韓国の主張への支持を求めているものとみられます。
トランプ大統領は19日、ムン・ジェイン(文在寅)大統領からこの問題に関与してほしいと頼まれていることを明らかにしたうえで、「ムン大統領のことは好きだし、安倍総理大臣も非常に特別な存在だ。必要とされれば解決できたらと願っている」と述べ、仲介に意欲を示す一方、どちらかに肩入れすることはないという姿勢を示しました。
米国務省 「日韓が協力分野を探すことを促す」
アメリカ国務省は、NHKが韓国の貿易管理体制についての見解を尋ねたことに対し、明確な回答を避けました。その一方で、「アメリカは同盟を強固なものにし、北東アジアにおける最も強力な同盟国のあいだの溝と亀裂を防ぐ必要がある。アメリカは韓国と日本が両国関係の肯定的な側面に焦点を合わせ、協力分野を探すことを促している」とコメントしました。そのうえで「われわれは、北朝鮮の非核化に向けて圧力をかけ続けるという点で一致しており、常に3か国間の協力の強化に関与している」と指摘し、北朝鮮の非核化などの課題に対処するために、日本と韓国のあいだの対立が解消されることに期待を示しました。
EUの輸出管理
EU=ヨーロッパ連合は、核拡散防止条約や化学兵器禁止条約、それに生物兵器禁止条約などに基づいて民生と軍事の両方に利用できる物品やソフトウェア、技術を「二重用途品」と規定して輸出管理を行っています。
これらの二重用途品は核物質や核関連製品、特殊素材、電子機器、センサーやレーザーなど10の分野にわたります。
こうした二重用途品をEU域外に輸出するには通常、契約ごとに個別の許可を取る必要がありますが、EUが適切な管理を行っていると認めた特定の国に輸出する場合には契約ごとではなく、包括的に許可を与える制度を設けています。この許可には6つのカテゴリーがあり、それぞれ対象になる国が決まっています。
このうち事実上、「最も優遇されている」とされるカテゴリーは、日本やアメリカ、カナダ、スイスなど8か国が対象です。
この8か国に対しては輸出管理の対象品目のうち、ウランや特殊な技術・ソフトウェアなどごく一部を除く大半を包括的な許可で輸出することができます。
韓国は、このカテゴリーには入っていません。一方で、韓国は、輸出管理の対象品目のうち、フッ化化合物やポリイミドのほか一部の化学物質、通信機器などに限って、輸出する際に包括的な許可が適用されるカテゴリーに含まれています。
トルコやアルゼンチンなども韓国と同様の適用を受けています。EUは、こうした輸出管理制度のもとでは対象国が安全保障上の国際的な義務を果たすことが重要だとしたうえで、運用は「ケースバイケースで対応している」としています。
また、日本が韓国向けの輸出規制を厳しくした措置についてEUの報道官は「2国間の状況を注視している」としています。