対アイルランド国境に近い英領北アイルランド・ニューリーで、EU離脱後も開かれた国境を維持するよう求める看板=9月11日(AFP時事)
対アイルランド国境に近い英領北アイルランド・ニューリーで、EU離脱後も開かれた国境を維持するよう求める看板=9月11日(AFP時事)

 【ブリュッセル時事】英国と欧州連合(EU)が合意した新たな離脱案は、複雑な事情を抱える英領北アイルランドを「経済特区」(貿易専門家)とする内容になった。ただ、地元の主要政党・民主統一党(DUP)は受け入れを拒否。DUPはジョンソン英首相に閣外協力してきただけに、今後にしこりを残しそうだ。

英・EU、修正離脱案合意=国境問題妥協、議会承認が焦点

 EU加盟国アイルランドと地続きの北アイルランドは、英国への帰属維持かアイルランドとの統一かをめぐって紛争となり、1960年代以降に多数が犠牲となった。98年の和平合意は英帰属を確認しつつ、将来的なアイルランドとの統一にも道を開いた。英・アイルランド間の検問所は廃止され、開かれた国境が和平の象徴となった。

 しかし、英国がEUから離脱すると、英・アイルランド間に税関や国境検査が復活し、紛争の爪痕が色濃い地域を不安定化させる懸念がある。統一派の過激組織アイルランド共和軍(IRA)の分派「新IRA」は英民放に、税関が「攻撃対象になる」と認めており、20年来の和平が離脱を機に台無しとなるリスクをはらんでいる。

 こうした点を踏まえ、メイ前首相とEUは、英・アイルランド間に税関や国境検査を復活させない方針で一致。英全体が離脱後もEUの「関税同盟」に残留し、アイルランド・北アイルランド・英本土間の通関手続きを不要にすることとした。

 ところが、EUからの独立を重視するジョンソン氏ら英国の強硬離脱派は「EUへの経済的な従属だ」と猛反発。DUPも反旗を翻し、メイ案は英議会で否決された。

 これに対し、新離脱案は英本土が関税同盟から脱退することを明確化。北アイルランドはEU、英国それぞれの関税の二重運用地域とし、関税同盟への残留とEUからの独立を両立させる複雑な仕組みとした。

 英政府はこれをもって、北アイルランドが英国内でEUとの貿易を特に促進できる「経済特区」だと主張するとみられる。半面、実質的には英本土・北アイルランド間に関税上の国境線が引かれることになり、DUPがメイ案からの後退だと受け止めても不思議でない。