安倍晋三首相は23日、日中韓サミットが開かれる中国四川省成都に直接赴かず、成都から1500キロメートル以上離れた北京に立ち寄った。習近平国家主席が国賓として来春来日する前に地域情勢をめぐる認識を共有し、2国間関係での日本側の懸念を直接伝えるためだった。ただ、国賓への反対論は自民党内でも強く、今後、習氏の来日で得られる国益を丁寧に説明する必要に迫られている。
「中国という国は、トップに会って直接打ち込まなければ物事が動かない」
外務省幹部は首相の北京訪問の狙いをこう説明する。北朝鮮が挑発姿勢を強める中、21日にトランプ米大統領と今後の対応方針を協議した首相が、北朝鮮に影響力を持つ中国のトップと情勢認識を共有した意義は小さくない。
首相と習氏の会談は、以前は設定自体が難航した。旧民主党政権による尖閣諸島(沖縄県石垣市)の国有化の影響などもあり、平成28年9月に2人が中国・杭州で会談した際は「30分の会談のために日中の事務方が直前に5時間協議しても、なかなか日程が決まらなかった」(日本政府関係者)。中国側が「東シナ海問題に触れれば会談開催が危うくなる」などと条件を付けてきたためだ。
時は過ぎ、首相は今回の会談で尖閣周辺での中国公船の挑発や人権問題にも切り込んだ。会談に同席した岡田直樹官房副長官は「率直かつ建設的な議論を行うことが可能になった」との認識を記者団に示した。
しかし、首相の「日中関係は完全に正常な軌道に戻った」との見解に多くの人が納得しているとも言い難い。首相はこれまでも習氏に対し中国の「前向きな対応」を求めてきたが、尖閣周辺での中国公船の挑発は活発化し、不透明な邦人拘束も増え、一部の状況はむしろ悪化している。
「逃亡犯条例」をきっかけとした香港の混乱は激化し、新疆(しんきょう)ウイグル自治区での人権弾圧を裏付ける内部文書も公開され、国際社会の対中批判は強まっている。自民党では保守系グループからだけでなく、党総務会でも習氏の国賓待遇に疑問の声が上がり始めた。
政府高官は「中国側が求めてきた国賓訪問を受けたら、中国をめぐる状況が変わってきている」と説明するが、習氏来日で何がどう改善し、いかなる国益を確保できるのか。首相がこの点を明確に語らない限り、国賓反対の声は一層強まることになりそうだ。(北京 原川貴郎)