[ニューヨーク 3日 ロイター] – イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を空爆して殺害したことについて米政府は、自衛行為だと正当化し、国際法に違反しているとの非難や、法律の専門家や国連の人権関係者の懸念をかわそうとしている。 

イラン精鋭部隊司令官の殺害で米国とイランの間の緊張は高まり、イラン当局は報復を警告した。法律の専門家からは、イラク政府の同意を得ずにトランプ大統領がイラク国内で攻撃する法的権限があったのか、また攻撃は国際法と米国内法に照らして合法だったのかを疑問視する声がでている。 

イラクのアブドルマハディ首相は攻撃について、米軍のイラク駐留を巡る合意に違反していると指摘。またイラク国内の複数の政治勢力は米軍の撤退を求めた。 

国連憲章は他国への武力行使を原則として禁止しているが、当該国が領土内での武力行使に合意した場合は例外としている。専門家によると、イラクの同意を得ていないことから米国は攻撃を正当化することは難しいという。 

国際法が専門のイェール大学ロースクールのウーナ・ハサウェイ教授はツイッターで、公表された事実からみると今回の攻撃が自衛行為であるという主張は「支持されないようだ」とし、「国内・国際法いずれに照らしても根拠は弱い」と結論付けた。 

国防総省は、「今後のイランの攻撃計画」を抑止するためソレイマニ司令官を標的にしたと指摘。トランプ大統領は、司令官は「米国の外交官や兵士への悪意のある差し迫った攻撃を画策していた」と述べた。 

テキサス大学オースティン校ロースクールのロバート・チェズニー氏(国家安全保障法が専門)は、国連憲章上の問題を巡る政権のよりどころは自衛と指摘。「アメリカ人殺害作戦の計画を受け入れれば、それに対応する権限が与えられる」と述べた。 

オバマ政権時代にイラクの米国大使館で法律顧問を務めたスコット・アンダーソン氏は、国際法下でのトランプ大統領の権限には疑問があるとしながらも、イラク政府がソレイマニ司令官の脅威に対処する意思がない、あるいは対処できないため、同意なしに行動する権利があると主張することは可能だと述べた。 

国連憲章第51条は、武力攻撃に対する個別的・集団的自衛権を規定している。米国はこの条項を2014年にシリアで過激派組織イスラム国(IS)に対する行動を取る際に利用した。イラク駐留米軍はISと戦ったが、現在は主にアドバイザー的立場で約5000人が残っているだけだ。 

米国とイラクが2008年に調印した戦略的枠組み合意では、イラクの「主権、安全保障、領土の保全」に対する脅威を抑止するために緊密な防衛協力をうたったが、米国がイラクを他国攻撃の拠点として使用することは禁じている。 

国際法のこれまでの基準からみて、脅威にみあった対応を必要に迫られて行う場合、国家は先制的な防衛が可能だ。 

司法管轄外の処刑に関する国連特別報告者のアグネス・カラマード氏は、攻撃がこの基準を満たしているかどうか疑問を示す。ソレイマニ司令官を標的にしたことは「差し迫った自衛のため事前対応というより、過去の行為に対する報復のように見える」と指摘。「このような殺害への法的根拠は非常に狭く、適用するのは想像しがたい」と述べた。 

米民主党議員はトランプ大統領に対し、ソレイマニ司令官による差し迫った脅威について詳細を提供するよう求めた。 

上院情報特別委員会の副委員長である民主党のマーク・ウォーナー議員はロイターに対し、「脅威があったと信じているが、どれだけ差し迫っているかという点は答えがほしい」と述べた。 

米国内法からみたトランプ大統領による司令官殺害の権限と、議会に事前に通知せずに行動すべきだったかどうかについても疑問が示されている。 

法律の専門家は、最近の米大統領は民主・共和問わず、標的の殺害を含む一方的な武力行使の可能性を拡大解釈しており、歴代政権内の法律専門家により支持されてきたと指摘する。 

今回の場合の自衛論の論拠は、米国人を攻撃するという差し迫った計画に関する具体的な情報を政府が公表することにかかっているといえる。 

前出のチェズニー氏は、自衛の場合、議会への事前通告や議会の事前承認を得ることなく、行動が可能と指摘する。 

民主党議員は、ソレイマニ司令官擁護の声はあがっていないものの、今後議会と協議するようトランプ大統領に求めた。 

米中央情報局(CIA)でイランが支援するイラクでの民兵組織を分析していた元アナリスト、エリッサ・スロットキン下院議員は、「トランプ政権も他の政権と同様、自衛のために行動する権利を有している。しかし政府は直ちに議会と協議する必要がある」と述べた。