[クアラルンプール 25日 ロイター] – 新型コロナウイルスとの闘いには、使い捨てのゴム手袋が必須だ。しかし、世界生産の5分の3を担うマレーシアでロックダウン(封鎖)が実施され、世界中の病院でゴム手袋が不足する恐れが生じている。
世界最大の医療用手袋メーカーである同国のトップ・グローブ・コープ(TPGC.KL)は、1日当たり2億枚の生産能力がある。しかし、下請け業者の閉鎖により、手袋を梱包して出荷するための梱包箱の在庫が、残り2週間分に減ってしまった。
リム・ウィー・チャイ会長は「カートンがなければ手袋を病院に送れない。病院はわが社の手袋を必要としている。わが社は病院に必要な分量の50%を供給できない」と話す。
マレーシア政府は新型コロナの感染拡大を防ぐため、18日から4月14日まで約1カ月間のロックダウンを発表し、国民に外出を禁じた。手袋メーカーなど一部の業種では、厳密な安全基準を満たせば半分の人員による操業が認められるが、マレーシア手袋製造協会(MARGMA)は、業界をフル操業に戻してほしいと当局に訴え続けている状態だ。
梱包材メーカー、エトス・インプリント・テクノロジーのマネジングディレクター、エボンナ・リム氏は「当社は閉鎖されている。当社はロックダウンを免除される業種だが、それでも(操業には)承認が必要になる」と話した。
ニューヨーク大医学部の感染症専門家、セリーヌ・ガウンダー氏は、新型コロナ患者が増えたため、毎日、通常の6倍の枚数の手袋を使っていると説明。「手袋が不足すれば、血液を安全に採取できないため深刻な問題が生じる。多くの医療処置を安全に行えない」と言う。
<世界から呼びかけ>
米食品医薬品局(FDA)はウェブサイトで、一部の手袋は保存可能期間を過ぎても使えるとの見解を示した。米政府は24日、強制労働問題を理由に輸入を禁止していたマレーシアのある手袋メーカーへの措置を解除した。
英保健・社会福祉省は、マレーシアの省庁に対し「COVID―19(新型コロナウイルス感染症)との闘いに必要不可欠な」手袋の生産・出荷を優先するよう訴えた。手袋メーカー、スーパーマックス(SUPM.KL)宛ての20日付の書簡をロイターが確認した。
MARGMAのデニス・ロー会長は「需要が極めて大きい」ため、配給制を検討していると説明。「手袋は最大限に生産できるが、梱包するものがない」と述べた。
トップ・グローブ社は通常、自社製手袋の梱包の40%未満を自社でまかない、残りはサプライヤーに頼っている。しかし、サプライヤーのうち、人員半減態勢での操業を認められているのは、わずか23%だという。
「ほぼ1時間に1度は政府にロビー活動を行っており、省に何通も書簡を送った。化学メーカーらが承認を得られるよう懸命に働きかけているし、この産業を支える印刷業者その他の事業、それこそ輸送に至るまで、当局の承認を確保したい」
MARGMAは声明で、ロックダウン中は、半分の許可人員に残業させることに頼らざるを得ず、コストが最大30%上昇するが、購入先はそれを負担することに同意しているとした。
マレーシア貿易産業省は24日、ロックダウン中の操業について大量の申請を受け取っており、必需品を生産している企業を優先するよう産業界に協力を求めていると説明した。
先進諸国全体の人口は世界の5分の1だが、医療基準が厳格なため、医療用手袋の需要では7割近くを占める。MARGMAの最新データによると、米国の1人当たりの手袋消費枚数は150枚と、中国の20倍だ。
MARGMAは、今年の手袋需要は16%増の3450億枚に達し、マレーシアの世界シェアは2%ポイント上がって65%になると予想している。現在、シェア第2位はタイの約18%、3位は中国の9%だ。