新型コロナウイルスをめぐる事態は、少しずつだが悪い方に向かっている。このままいけば週内にも改正された新型インフレエンザ特措法に基づく「緊急事態宣言」が発動されるかもしれない。だが、事態はもっと早いテンポで動く可能性もある。宣言はいまや遅きに失しているかもしれない。いずれにしてもこの1〜2週間が当面の最大の山場になるだろう。「ギリギリで踏みとどまれるか」「一線を超えて中国や欧米並みの強硬手段が必要になるのか」、まさにここからが本当の分かれ道だ。今朝テレビの情報番組を見ていたら、相変わらず「PCR検査を増やせ」と喚いているコメンテーターがいた。これでは事態は改善しないだろう。

原点に戻って我々が直面している事態に思いをいたすべきだ。敵は「未知なるウイルス」である。特効薬もなければワクチンもない。正体は少しずつ分かってきたが、このウイルスの一つの特徴は感染力がものすごく強いことだ。おまけに感染しても症状がでない人がいる。これが厄介だ。そこで日本は専門家の意見に沿って「積極的な免疫調査」という感染クラスターの発見と、次なるクラスターへの感染防止に努めるという対応策を採用した。これは単にそうしているわけではない。現行の医療体制や保健所要員、PCRの検査技師など現有資源を勘案すると、「そうせざるを得ない」という実情があるからだ。もちろん「あらゆる人を対象に検査する」ことが理想ではある。それを実現するためにも時間が必要なのである。

ところがコメンテーターは「検査を拡大することによって、クラスターも早期に発見できる」と原則論を滔々と喋っていた。こういう論説を「合成の誤謬」という。経済用語だが部分的には正しくても全体としてみると間違っていることを指している。検査を無制限に拡大してイタリア、韓国は医療体制の崩壊を招いた。緊急事態の発令を避けるためにいまもっとも必要なことは、すべての日本人がすでに無症状の感染者であるとの仮定を受け入れることだ。防衛戦争の最大の戦力は国民の自覚だろう。その自覚なくして言葉は無力だ。結局この戦いは専門家や政治家、まして一知半解なコメンテーターの声をどんなに集めても勝てない。これに勝つ唯一の方法は国民の自覚ということになる。