日本が韓国の新型コロナウイルス対策から学べること──(3)情報公開
生活研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
国内で確認された新型コロナウイルスの感染者数が1万人を超えた(「ダイヤモンド・プリンセス」の乗船者を除く)。東京だけでも4月19日時点で3000人を超えるなど感染拡大の勢いが止まらない。マスコミでは感染者がこのまま増加すると、日本は医療崩壊の危機に直面する恐れがあると連日報道しており、国民の不安は高まっている。
マスコミは感染者数の統計を繰り返して報道しているものの、なぜか報道されているのは東京の1日の感染者数のみで、全国の感染者数に関してはほとんどの放送局が報道をしておらず、日本全体の現状を把握することが難しい。さらに、感染者数とともに検査数を報道していないので、感染者数だけを見てもなぜ前日に比べて感染者数が増減したのか分かりにくい。もちろん、1日の検査数を前日に比べて減らすと、1日の「確認された」感染者数は減ることになる。限られた情報下では政府やマスコミが発表する「確認された」感染者数だけを聞いて一喜一憂することしかできない。この「確認された」感染者数の詳細については厚生労働省のホームページから確認できるようになっているが、その情報を確認できるまでには少しばかりの時間を要する。また、厚生労働省のホームページに掲載されている感染者数とマスコミの報道内容には集計時刻の差により多少数値が異なることもあるので、注意が必要である。
日本より先に感染が広がった韓国でも感染者数に関する情報を公開している。韓国では感染症対策のコントロールタワーである疾病管理本部(KCDC)が中心になり、1)「国内の全体状況が一目で分かる画面」、2)「国内や世界の状況が一目で分かる画面」、3)「1日の感染者数の詳細やアンケート調査などが確認できる1日報告書(約15~20頁)、という形で毎日情報を提供している。特に、3)「1日の感染者数の詳細やアンケート調査が確認できる1日報告書」の場合、地域別、年齢階級別、性別、感染経路別の感染者数に関する情報に加え、新型コロナウイルスに対する国民へのアンケート調査結果、海外の感染情報等の情報も提供している。以上の3つの方法で提供される感染者数関連情報は翌日の午前10時頃には疾病管理本部のホームページから確認できる。図表1は、1)「国内の全体状況が一目で分かる画面」を日本語で約したものである(4月19日00時基準)。
また、1月20日に韓国で初めて新型コロナウイルスの感染者が確認されてから、疾病管理本部の本部長や副本部長は、国内の感染者状況などについて毎日ブリーフィングを行っており、国民はYouTubeを通してブリーフィングの内容を確認することができる。ブリーフィングを行う疾病管理本部のチョン・ウンギョン本部長や、クォン・ジュヌク副本部長(国立保健研究院長)は交代(メインは本部長)で新型コロナウイルスの現状について丁寧に説明をしており、国民の安心感を高めるのに重要な役割を果たした。チョン・ウンギョン本部長や、クォン・ジュヌク副本部長は、それぞれ予防医学や保健医学の博士号を持っている医療や感染症に関する専門家でもある。
スマホから感染経路を把握
韓国政府は、感染拡大を防止するために感染者の感染経路や自己隔離中の移動経路に関する情報提供を可能にした。韓国政府は、感染が確認された場合、感染者のスマートフォンやクレジットカードの使用履歴、監視カメラなどの情報などを用いて感染されるまでの感染経路を把握し、公開している。また、自治体の疫学調査チームは感染が確認された人と接触した可能性がある人の移動経路を調べて個人別に連絡をし、発熱などの症状がある場合にはPCR検査を、無症状の場合には自己隔離対象者として指定し、自宅等で2週間自己隔離をさせている。先日、韓国の疾病管理本部に電話をして確認した所、最近はスマートフォンが普及し、さらに韓国では現金よりクレジットカードの使用が一般的なので個人の位置情報を把握することはそれほど難しくないそうだ。経済産業省が2018年に公開した報告書によると、韓国のキャッシュレス決済比率は89.1%で他の国の数値を大きく上回っている(図表2)。
さらに、4月1日からは全ての入国者に2週間の自己隔離を義務化している。入国者は入国審査場の手前に掲示されたQRコードをスマートフォンで読み込み、「自己隔離者安全保護」アプリをインストールしなければならない。症状がある人は空港に設置されている検査場所でPCR検査を受け、無症状の人は自宅に帰宅(韓国に隔離のための居住地などがない場合は韓国政府が準備した施設を隔離場所として利用、有料)してから新型コロナウイルスの検査(入国後24時間以内)を受けるように伝えている。入国してから14日間の自己隔離中は毎日体温などを自ら図り、専用アプリに報告する義務がある。自己隔離対象者が隔離場所から離脱した場合、スマートフォンにインストールされているアプリの位置情報システム(GPS)から警報音が鳴らされる。また、自己隔離対象者が自己隔離を違反した場合には1年以下の懲役または1,000万ウォン以下の罰金が科せられる。
感染者や自己隔離者の移動経路などの公開については、一部のマスコミなどから個人の私生活を侵害するものであるという批判の声が上がったものの、国民の多くは情報公開についてある程度納得している様子である。これは、韓国の感染拡大の原因が新興宗教団体によるものであって、当初は当該団体の信者に関する情報公開の著しい遅れや秘匿があって、それに対する国民の不信感の増大があったことがその主な理由である可能性がある。韓国政府は個人情報公開については反対する意見を一部受け入れ、3月13日に「感染者情報公開ガイドライン」を修正し、感染者と接触した人が出た場所、日時、移動手段は公開するものの、住所や職場名は公開しないようにした。但し、職場で多くの人が感染された場合には時間や場所を特定して公開できるようにした。
前々回や前回1のコラムでも説明した通りに、韓国政府は積極的な検査や隔離、そして迅速な情報公開を中心に、新型コロナウイルスの拡大を防止するための対策を実施している。その結果、感染経路が不明な人の割合は最近2.8%まで低下し(4月12日韓国政府報道資料)、4月19日の新たな感染者数は13人まで減少した。このような新型コロナウイルスに対する一連の対策や結果が評価されたのか、4月15日に行われた総選挙で文在寅政権を支える与党「共に民主党」など新文在寅大統領を支持する勢力が300議席のうち、過半数を上回る180議席を獲得し、圧勝した。
本文で紹介した韓国の感染者数や感染者に関する情報提供対策が日本政府の今後の対策に少しでも参考になり、感染者の拡大防止や感染経路の把握に貢献できれば幸いである2。
リポート本文
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/64275_ext_18_0.pdf?site=nli