[東京 29日 ロイター] – 評論家の中野剛志氏は、ロイターとのインタビューで、新型コロナウイルスによる「恐慌」を乗り越えるには国内総生産(GDP)の5割を超える大規模な財政出動が必要で、政府が重要産業に資本を注入するなど社会主義的な措置が求められるとの見方を示した。感染拡大期が主要各国より遅れて訪れた日本は終息のタイミングも後ずれし、先に経済活動を正常化させた中国や韓国に市場を奪われる恐れがあるとの見通しも示した。
政治経済思想を専門とする中野氏は、政府がいくら借金しても破たんしないとして積極的な財政出動を唱える経済理論、「現代貨幣理論(MMT)」をいち早く日本に紹介したことで知られる。
<強いデフレ圧力>
中野氏は新型コロナによる日本経済への影響を、雇用面から2008年の世界金融危機の際と比較。非正規雇用の割合が当時の33.7%(2009年)から38.3%(2019年)へと増加していることから、失業率はあの時より悪化しやすい状況にあり、「おそらく5%台では済まない」と指摘した。
さらに日本のGDPの6割を占める個人消費について、7都府県に非常事態宣言が出された際に、全国で4兆9000億円の減少が予測されるとした、りそな総合研究所の試算にも言及、「消費税によりさらに10%も購買力が奪われるわけで、想像を絶する事態だ」と語った。
中野氏は、一部医療物資の不足やサプライチェーン(供給網)途絶による物価高騰の懸念を指摘する一方、経済活動の停止と需要不足による「デフレ圧力の方がはるかに強い」と指摘。「特に中国、韓国、台湾が先に生産活動を再開し、余剰の製品を安い価格で大量に輸出するだろうから、さらなるデフレ圧力が加わる」と予想した。
中野氏はこれを「恐慌」と表現し、「政府支出を空前の規模で拡大する以外にない。GDPに占める政府支出の比率を5割以上、あるいは6割以上にしてでも、事業を継続させ、雇用を維持する必要がある」と語った。さらに、労働者の給与を財政から直接支払うほか、政府が雇用を拡大、医療物資の生産・調達を主導し、重要産業へ資本を注入する必要性も出てくるとした。
中野氏は「もはや社会主義と言ってよい。しかし、イデオロギー上の好悪を超えて、一時的に社会主義化しないと、このコロナ恐慌は到底、克服できない」と述べた。
<優良企業が淘汰される矛盾、日本企業のバーゲン>
中野氏は危機終息後について、日本経済がV字回復することは望めないと予想する。企業倒産や失業の増大で供給側の能力が毀損されてしまうためで、「需要が回復しても、供給が追い付かず、停滞が続く」と語った。
廃業や倒産が経済の新陳代謝を促すとする一部の主張に対し、「今回のコロナ危機でより生き残りやすいのは、内部留保がより大きい企業」と反論。「積極的な設備投資、R&D(研究開発)、労働分配を行ってきた優良企業が逆に淘汰されてしまうため、企業の廃業や倒産を放置すると、かえって非効率な経済となってしまう」とした。
さらに、拡大期が早く訪れた国ほど終息時期も早いとし、主要国では中国、韓国、欧州、米国、日本の順番になると予測した。「先に復活した中国や韓国の企業が世界市場を奪ってしまい、日本が生産活動を正常化させた時には、もはや海外市場の取り分はないという事態が想定される」と語った。その上で「日本企業やその資産や技術は、お買い得のバーゲンセール状態であろう」と述べた。
<グローバリゼーションは死語に>
中野氏は、今回のコロナ危機が世界秩序にも影響を与えると予測。世界的に失業率が高まる中で自国第一主義が台頭し、グローバリゼーションは大きな転機を迎えると指摘した。保護主義が広がり、各国政府が強力に産業政策を主導していく可能性が高いという。中野氏は「グローバリゼーションは死語になっているであろう」とした。
その中で日本が財政支出に消極的な姿勢を示し、内需を維持・拡大せず、海外の需要を奪うようなことになれば、「近隣窮乏化策とみなされ、反日的な排外主義を招く」と懸念。「他国と同等、あるいはそれ以上の財政出動を行って、内需を拡大し、むしろ輸入を増やすことだ」と語った。
中野氏は「コロナ危機後の世界秩序は、コロナ危機の下で社会主義化を決断し、実行した国が生き残り、社会主義化できなかった国が凋落する」と述べた。
(インタビュアー:竹本能文)