[東京 1日 ロイター] – 新型コロナウイルスに対応した緊急事態宣言について安倍晋三首相は1日、1カ月程度の延長を表明した。エコノミストの間では、今年度はリーマンショック時を超えるマイナス成長との見通しがほぼコンセンサスとなり、政府内でも成長悪化は底が見えない状況との認識が広がる。期限延長に対応する新たな事業者支援はまだ打ち出されておらず、批判も高まっているが、予備費の活用や追加支援の議論が水面下で進行中だ。 

<経済損失、未曾有の規模に> 

緊急事態宣言が1カ月延期となれば、経済は未曾有の落ち込みになるとみられている。 

三菱UFJモルガンスタンレー証券・副所長の鹿野達史氏は、個人消費は延期により20兆円減少し、20年度成長率はマイナス3.9%になると予測する。リーマンショック時、08年度のマイナス3.4%を上回る落ち込みとなる。これまでの経済対策の押し上げ効果2.9%では足りず、さらに10兆円規模の追加支出が必要と試算する。 

BNPパリバ証券では20年度の成長率をマイナス6.3%と予測する。資金繰り支援や協力金などの政策でも、倒産や失業は増加し、悪影響の二次的波及が強まる。7─9月期に事業が再開し、反動増でGDPが大幅な伸びとなっても、その水準は今年1-3月に及ぼない、と指摘する。 

感染が終息した後、政府が望むV字回復を期待する声は今やほとんど聞かれなくなった。 

世界の経済回復に遅れをとらずに迅速に回復していくには、事業者や雇用者がすぐに復帰できる体制を維持しておくことが必要になる。 

第一生命経済研究所の首席エコノミスト、熊野英生氏は、経済損失をできるだけ抑えるには、各自治体が休業要請の範囲を限定し、延長に伴って、休業補償・家賃援助を充実させることがポイントだと指摘する。企業が潰れてしまっては、雇用調整金の拡大も意味がなくなり、国民生活や街の衰退にもつながりかねない。 

<宣言延期と対応策、動き鈍い政府> 

こうした中、政府与党からも「緊急事態宣言の延長は5月末までが限界だ。日本経済が持たない」と、危機感をあらわにする声が出ている。何の追加支援も打ち出されぬままでは、事業者や雇用者の「息の根」を止めることになることになりかねないからだ。 

ただ、安倍晋三首相自身は28日の参院予算委員会で「(緊急事態宣言が)ある程度の期間延びたとしても、今回の補正で対応させていただきたい」と回答。予算成立前で、次の対策への言及には慎重だったこともあり、野党や知事からの批判を招く結果となった。 

大阪府の吉村洋文知事は30日、緊急事態宣言が延長される見通しとなったことについて、「宣言を延長するなら(休業要請している事業者への)補償をきっちりやらないと無責任だ」と指摘。「ただ延長となれば国民にとってあまりにも酷だ」と述べた。 

野党は28日、新型コロナウイルス感染拡大の影響で2割以上減収した事業者の家賃を支援する法案を衆院に共同提出。主要野党は家賃猶予の関連経費5兆円を、20年度補正予算に計上するよう要求していた。 

<政府内でも議論進行、経済基盤の破壊防止が必要> 

政府与党も問題は認識している。財務省関係者も、首相発言はあくまで公式答弁だと説明。「2次補正が年末と思っている人はいない」と打ち明ける。西村経済再生担当相も1日には「事態が長引くようなことになれば、当然、さらなる支援策も必要になってくると思う。時機を逸することなく、臨機応変に果断に対応していきたい」と述べている。 

政府筋によると、政府内では家賃問題への対応などで、予備費の活用や、必要に応じて随時財政支出を行うなどの議論が進行中だ。ただ、未曾有の事態だけに今後、経済がどこまで落ち込むかわからず、今後の成長見通しの試算や追加財政支出の規模感などは白紙だという。 

世界が感染拡大を封じ込めた時に、日本の経済基盤が破壊されずに迅速に回復できるよう、事業者や雇用者を守っていくことが政府の最大の使命でもある。 

そのためには、輸出企業など、日本のけん引役となる産業の保護が必要だと指摘するのは、アジア開発銀行の吉野直行所長だ。 

すでに感染拡大を封じ込めた中国では、輸出全体のシェアは小さくとも、得意分野のマスク生産や治療薬の輸出を拡大し、経済再開の糸口にしている。吉野氏は、世界がコロナを教訓に5G、6G関連分野への投資を加速するなら、日本も例えば得意の半導体製造装置などの事業のリソースを温存できるよう、支援することも必要だとしている。 

編集:石田仁志