- 経済対策の規模は先進国で突出、20年度のPBは66兆円の赤字に
- 潜在成長率引き上げへ産業構造転換や人口政策に本腰を-大和総研
新型コロナウイルス感染症の影響拡大に伴う大型経済対策の実施で、2020年度の政府の歳出と税収の差は100兆円を超え、いわゆる「ワニの口」は大きく広がる見通しだ。政府が産業構造の転換や人口政策などを通じて潜在成長率の引き上げに本格的に取り組まない限り、財政悪化のツケは家計や企業、将来世代に回されるとエコノミストらは警鐘を鳴らしている。
政府は新型コロナ対策で編成した20年度の第1次、第2次補正予算で、総額13兆円に上る一律10万円給付に加え、税や社会保険料の繰り延べ26兆円、企業の資金繰り支援140兆円、今後に備えた予備費11.5兆円などを計上。この結果、今年度の一般会計の歳出総額は160.3兆円となり、税収見積もり63.5兆円との差は96.8兆円に拡大した。
SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは、納税猶予に加え、景気悪化に伴う所得税と法人税の下振れで、今年度の税収は51.6兆円と、政府見積もりに比べ11.9兆円減ると試算する。既定経費の削減や予備費の取り崩しを行っても追加の赤字国債発行は免れず、ワニの口は一層広がるとみる。
財務省の公表資料によると、日本のコロナ対策の事業規模234兆円は国内総生産(GDP)との対比で42%に達する。ドイツ、英国は各22%、フランスは18%、米国は14%で、日本は先進国の中で突出している。政府は25年度の基礎的財政収支(PB)の黒字化を目標に掲げているが、20年度は66兆円の赤字となる見通しだ。
西村康稔経済再生担当相は25日の衆院議院運営委員会で、「国民の生活、雇用、事業を守るために必要な予算を確保していくことが何よりも大事」とし、「今は財政再建など言っている場合ではない」と発言。麻生太郎財務相も27日の第2次補正予算案の閣議決定後の記者会見で、「やらなければ結果としてもっと経済が落ち込みかねず、覚悟を決めて財政出動にかじを切った」と述べ、経済回復優先を訴えている。
宮前氏は「この局面で財政出動は仕方がないが、何らかの形でツケを払うことになる」と指摘。「東日本大震災の復興増税のように皆で負担するか、国債発行なら将来にツケを回すことになる。インフレになればお金を持っている人が損をするし、今のような低金利が続けば、資金余剰主体である家計や企業が損をする」との見方を示した。
大和総研の小林俊介シニアエコノミストは「将来的にPBを黒字化できると思われているうちは日銀ファイナンスで何とか低金利を維持できる」としながらも、「恐慌シナリオを止めるために200兆円の痛み止めを打ちつつ、根治療法としての潜在成長率引き上げをやっていかないと、財政再建は達成できない」と説明。今こそ産業構造の転換や人口政策などに本腰を入れて取り組むべきだと述べた。