[東京 7日 ロイター] – 英国の非営利組織インフルエンスマップはこのほど、国内総生産(GDP)の1割に満たないごく一部の業界が、日本の気候変動・エネルギー政策に大きな影響を与えているとする調査をまとめた。 

日本の50の主要な経済・業界団体を選出して検証したもので、気候変動・エネルギー政策への関与の度合いをそれぞれ点数化した。 

ロイターが事前に入手した調査報告書は、鉄鋼、電力、自動車、セメント、電気機器、 石油・石油化学、石炭関連の7つの産業が業界団体を通じて積極的に国の政策に働きかけていると指摘。「パリ協定と整合する気候変動政策に反対の立場をとっていることが示された」としている。 

一方、金融や小売り、電子機器などの業界は「パリ協定と整合する政策に前向き」だが、政策立案への働きかけが「弱い」としている。 

報告書は、後ろ向きな7つの産業が日本最大の経済団体である経団連の中で、いかに大きな影響力を持っているかを詳述。その上で、日本のエネルギー政策の決定に経団連が重要な役割を果たしていると説明する。 

「日本の経済界のいわばトップ機関として、経済産業省や内閣府などの主要行政機関との交渉役となり、気候変動政策への働きかけを行うという手法が取り入れられてから、かれこれ20年になる」と、報告書は指摘する。 

日本は2021年にエネルギー基本計画を改定する。インフルエンスマップは、こうした業界団体のロビー活動が大きな影響を持つとしている。 

経団連の広報はロイターの取材に対し、報告書自体にコメントする立場にないと回答。「政府が掲げたゴールはパリ協定の目標と整合的であり、経団連としてパリ協定が目指す脱炭素社会の実現に取り組んでいく」とした。 

脱・炭素社会に向けた取り組みを推進する企業団体、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)の石田健一共同議長(積水ハウス (1928.T)常務執行役員)は、報告書に目を通した上で、「一部の限られた業界が日本の政策に大きな影響力を持ち、脱炭素化を遅らせていることを指摘しており、JCLPで活動する中で感じる実態と一致する」と語った。 

JCLPにはイオン(8267.T)や富士通(6702.T)、リコー (7752.T)など大手を始め、約140社が加盟。6月には新型コロナウイルス後の経済回復策について提言を出し、脱・炭素社会への転換を加速するよう政府に求めた。 

日本の石炭使用量は福島第一原発の事故後に急増した。石炭火力は現在、日本の総発電量の32%を占める。日本政府は2030年までにその割合を26%まで低減させる一方、自然エネルギーを22─24%まで引き上げることを目指している。 

政府は6月、140基ある石炭火力発電のうち、発電効率の低い114基を「できる限りゼロに近づけていく」方針を打ち出した。その一方で、高効率の石炭火力発電所を建設するとしている。 

日本企業は今後10年で約20基、総発電量1万2000メガワット分の石炭火力発電所を建設する計画であることが、ロイターの調査で明らかになっている。主要7カ国(G7)の中で唯一、石炭火力発電所を大規模に新設しようとしている国だ。 

「このリポートの分析結果は、京都議定書の交渉や立法時など、現役行政官であった時に体感した政策形成環境と概して一致する。それが現在でも変わっていないとの指摘に驚いた」と、小林光・元環境事務次官はロイターとのインタビューで語った。 

「いわゆる護送船団方式・横並び主義が、環境ビジネスへの挑戦を妨げているとすれば、日本経済が世界に劣後する原因の一つになるのではないかと心配になる」。

Aaron Sheldrick 翻訳編集:久保信博 グラフィクス作成:照井裕子