[ロンドン 1日 ロイター] – 米フェイスブック(FB.O)は1日、ロシアが独立メディアを装って米国と英国の左寄りの有権者に影響を及ぼそうとしていたと明らかにした。
フェイスブックによると、「ピース・データ(Peace Data)」という報道機関を模倣する団体が、フリーランスのジャーナリストを起用し国内政治に関する記事を執筆させるなどして、11月3日の米大統領選挙に向け米国の政治や人種問題を巡る緊張の高まりをターゲットにしていた。
ピース・データはフェイスブックで13のアカウントを保有し、2つのページを運営。フェイスブックは偽の情報を利用したなどの理由で8月31日に停止した。
フェイスブックによると、調査でロシアのソーシャルメディア上の情報工作の拠点とされる「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」の過去の活動に関連していた複数の人物との関連が確認された。
IRAはロシアのサンクトペテルブルクに本拠を置く企業で、米国の情報機関はトランプ大統領が勝利した2016年米大統領選への介入で中心的な役割を果たしたとしている。
ツイッターも、「ロシア政府が背後にいると考えられる」工作との関連が疑われる5つのアカウントを停止したと明らかにした。
ソーシャルメディア分析会社のグラフィカの報告書によると、ピース・データは米国と英国の進歩主義団体や左派団体などを主要なターゲットとし、ウェブサイトで右派、および中道左派を批判するメッセージを発信していた。米国では特に「人種問題と政治的な緊張の高まり」にターゲットを据え、全国的に拡大した抗議活動のほか、11月の大統領選で戦う共和党のトランプ大統領と民主党のバイデン前副大統領に対する批判を注視していたという。
ロイターの電子メールによる取材に対し、ピース・データは返信していない。ロシア当局者からもこの件に関するコメントは得られていない。
大統領選に向けたトランプ大統領の陣営の広報担当者は、トランプ氏は「公正に」再選されるとし、「外国の介入は必要なく、望んでもいない」と述べた。バイデン氏の陣営からコメントは得られていない。米国家情報長官室は連邦捜査局(FBI)に問い合わせるよう求めたが、FBIからコメントは得られていない。
フェイスブックのサイバーセキュリティー対策責任者ナサニエル・グレイチャー氏は、FBIから寄せられた情報に基づき、大勢のフォロワーを獲得する前に疑わしいアカウントを停止したと表明。ロイターの取材に対し「ロシア勢は今もなお暗躍していると人々に知ってもらいたい」と述べた。
ピース・データは英語とアラビア語で情報を発信。ウェブサイトでは「主要な世界的なイベントを巡る真実」を報じる非営利の報道機関としている。ただグラフィカによると、サイトに掲載されている常任スタッフは実在の人物ではなく、掲載されている写真もコンピューターで合成されたものだった。
ロイターが確認した広告のスクリーンショットによると、ピース・データはこうした実在しない人物を通して、フリージャーナリスト向けのサイトのほか、ツイッターで記事1本当たり最高75ドルの報酬を提供していた。
ピース・データのウェブサイトには22人の寄稿者が掲載されており、この大部分が米国と英国のフリージャーナリスト。フェイスブックとグラフィカは、こうしたフリージャーナリストがピース・データの実態を知っているかどうかは分からないとしている。
グラフィカの調査部門責任者、ベン・ニモ氏は、実在する人物を装うことで、政治的な影響を及ぼそうとする工作の発覚を回避しようとしていると指摘。「工作活動の規模は格段に小さくなっている。発覚を難しくしようとしているもようだ」と述べた。