安倍晋三首相は11日に発表した談話で、「ミサイル阻止」に向けた新たな安全保障政策に道筋をつけた。辞意を表明した首相が個別の政策課題について談話を発表するのは異例だ。
首相は当初、敵基地攻撃能力を含む敵ミサイルへの対処能力について、今月末までに方向性を打ち出す方針だった。平成29年に島嶼(とうしょ)防衛用の中距離ミサイル導入を決定した際、敵基地攻撃能力が本来の用途だと周囲に明かしており、今回の検討は真意を明確にする作業でもあった。
首相は病状の悪化で退陣を余儀なくされたが、あきらめなかった。辞意を表明する直前に国家安全保障会議(NSC)を開き、新たな安全保障政策に関する素案もまとめさせた。
政府関係者によると、11日に発表された談話は素案と比べれば簡素な内容で、次期政権に検討を委ねた形だ。閣議決定もしなかったため法的拘束力はない。
とはいえ、談話は政治的な拘束力を持ちうる。後継首相を決める自民党総裁選で、優位に戦いを進める菅義偉(すが・よしひで)官房長官が「安倍総裁が全身全霊を傾けて進めた取り組みをしっかり継承する」と強調しているなら、なおさらだ。
安倍政権では、他国との情報共有に必要な特定秘密保護法、集団的自衛権の限定行使を認める安全保障関連法など重要法案を成立させた。「ひそひそ話をしても逮捕される」「徴兵制につながる」…。今では笑い話にもならないデマが大手を振るい、内閣支持率の押し下げ要因となった。
後継首相が敵基地攻撃能力の取得に乗り出せば、同じような困難に直面するかもしれない。それでも国の存立にかかわる重要課題に取り組むのが「安倍路線の継承」だ。首相談話は、新政権に課せられた重い宿題となる。(杉本康士)