文在寅大統領(聯合=共同)
文在寅大統領(聯合=共同)

 【ソウル=桜井紀雄】韓国の秋美愛(チュ・ミエ)法相と尹錫悦(ユン・ソンヨル)検事総長率いる検察との対立が激しさを増している。秋氏による尹氏排除の強権発動を実名で批判した一人の検事を、秋氏が攻撃したことで、現役検事300人以上が次々とこの検事への支持を表明。沈黙を守ってきた現場が、政府の思惑に沿った捜査を無理強いしてきた文在寅(ムン・ジェイン)政権に「ノー」を突き付けた形だ。

実名書き込み、カミングアウト続出

 「検察改革は根本から失敗した」。南部の済州(チェジュ)地検の検事が10月28日、事件捜査の指揮から尹氏を外す秋氏による捜査指揮権の行使や、大統領府の元高官らが絡む事件を捜査してきた検察幹部らを相次ぎ左遷した人事について、検察内部のネットワークに「人事権や指揮権の乱発」だと批判する書き込みを行った。

 チョ・グク前法相がこの検事を批判する記事を交流サイトに掲載すると、秋氏も交流サイトに「上等です。そうやってカミングアウト(告白)してくだされば、答えは(検察)改革しかありません」と投稿した。

 現場の検事らは、実名で改革に抵抗するなら制裁対象になると示唆した圧力と受け止めた。検事らの「自分もカミングアウトする」との投稿が続いた。「独断や抑圧、恐怖は改革ではない」「北朝鮮じゃあるまいし…」と秋氏のやり方に反発する書き込みも目立った。投稿は検事総数の15%に近い300件を超えた。

検事総長、一躍「大統領候補」に

 反旗を翻したのは現場の検事だけではない。尹氏が指揮から外された巨額詐欺事件では、担当するソウル南部地検のトップが「政治が検察を覆い隠した」と秋氏の強権行使を批判して辞任した。もとは秋氏が起用した幹部だった。

 尹氏自身、10月下旬に国会で、秋氏の指揮権発動について違法だとの見解を示し、「検事総長は法相の部下ではない」と反論した。秋氏は、批判は「職を退いてから言うべきだ」と不快感を示し、検事総長に対する「指揮・監督者として恥ずかしい」と言い放った。

 秋氏のあからさまな辞任圧力にもかかわらず、尹氏は、文大統領から人を介して「任期を全うするよう伝えられた」と述べ、来年7月までの任期を勤め上げる意思を強調している。

 政権側の圧力に屈しない姿勢に、次期大統領選の有力候補として保守層の期待が集まり、次期大統領候補の支持率を問う最新の世論調査で、尹氏は保守系で断トツの17・2%の支持を得た。尹氏側は調査から自身の名前を抜くよう求めるなど、距離を置いている。

 尹氏は11月3日、検察の部内向けの講演で「国民が望む真の検察改革は、生きた権力の不正を、顔色をうかがわずに公平に捜査すること」だと力説した。文政権の不正に立ち向かう姿勢だけは確かなようだ。