[東京 14日 ロイター] – 膨張を続ける預金が将来の消費を下支えするとの期待感が、日銀や一部エコノミストの間で出ている。新型コロナウイルス対策で支給された現金が昨夏の好調な家電販売につがったこともあり、観光や投資商品購入の素地になるとみられている。一方、コロナの感染拡大は止まらず、再発令された緊急事態宣言が延長される可能性もある。消費が再び活性化するには、ワクチンの普及などでコロナの恐怖心が払拭されることが条件になりそうだ。

<現金給付「使い残し」への期待感>

日銀が12日に発表した2020年12月の貸出・預金動向によると、都市銀行・地方銀行・第二地方銀行の3業態計の預金の平均残高は802兆8673億円と、初めて800兆円の大台を超えた。

日銀内では、積み上がった個人預金は消費の、法人預金は資金繰りの下支えになるとの期待感が出ている。

加藤毅名古屋支店長は14日の支店長会議後の記者会見で、消費抑制と可処分所得の増加で「消費性向が今、かなり下がっている。過去の長期的なトレンドから見てもかなり低い水準になっている」と指摘。下がりすぎた消費性向は一定程度持ち直すのが過去の傾向のため「消費性向が上がっていくとすれば、もう少しコロナの状況が落ち着いてくる中で貯蓄が取り崩される形で消費が増えるだろう」と述べた。

コロナ対策の一環で昨年支払われた特別定額給付金が家電売り上げ等の押し上げ要因となったが、消費されずに残っている現金が個人預金に含まれているとみられ、日銀ではそうした預金が消費に回ることへの期待感もある。

みずほ総合研究所の酒井才介・主任エコノミストも、積み上がる個人の預金が「将来的な消費のバッファーになる」とみている。コロナへの警戒感が後退すれば、抑制していた消費意欲を実現するかたちで旅行や投資商品などの購入が活発になると予想している。

一方、新型コロナの感染拡大を受け、企業は前倒しで厚めに資金を確保してきた。再び緊急事態宣言が出されたものの、日銀では、積み上がった預金も一助となって、企業の資金繰りには余裕があるとの見方が出ている。

12月の貸出動向では地銀・第二地銀の貸出平残が前年比5.0%増と前月の5.2%増から伸びが鈍化。「毎年出る年末要因による資金需要の高まりが例年に比べて弱めだった」(日銀金融機構局の河西慎・金融第1課長)という。

<消費の本格回復は22年以降か>

しかし、消費の再活性化はコロナへの警戒感の払拭が条件になるとみられている。第一生命経済研究所の永濱利廣・首席エコノミストは「新型コロナウイルスへの恐怖心が払拭されない限り、預金が積み上がっても消費には回らない」と指摘する。

政府は13日、緊急事態宣言の対象地域を11都府県に拡大。みずほ総研は個人消費の減少額を2兆円程度と試算している。緊急事態宣言は1カ月では終わらず、3月末まで続くと想定。酒井氏は、消費が本格的に回復するのは、ワクチンが国民に広く普及するとみられる2022年以降とみている。

日銀が12日に公表した「生活意識に関するアンケート調査」では、コロナの感染が流行し始めた20年3月より前と比べて、娯楽・レジャーの外出が「減った」との回答が88.5%に上った。また、在宅時間を楽しむための支出が「増えた」との回答が32.0%だったのに対して、「変わらない」との回答は56.2%。今後、在宅時間を楽しむための支出を「変えない」との回答も70.6%を占め、消費に慎重な姿勢が浮かんだ。

感染抑止に向け、外出自粛や飲食店内での飲食回避の動きが続き、当面はサービス消費を中心に手控える動きが続きそうだ。SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「所得や賃金が減少する以上に消費が落ち込んでいる。貯蓄が増える傾向はこれからも続くだろう」と指摘。「800兆円は通過点に過ぎない」と話している。