髙橋 洋一経済学者、嘉悦大学教授
コロナ前から発行部数は右肩下がりで…
新聞が保護されている不可解な「特権」
コロナ禍でマスコミの報道ぶりが一段と劣化しているように感じる。
とにかく、即時的に政府批判をしたいがために、政府と真逆のことを言うだけのようにしか映らない。改めて本コラムで書いてきたマスコミへの「苦言」をまとめると、次のようなものが主だ。
ア)昨年5月の2次補正で10兆円の予備費を計上したら大きすぎると批判し、その結果医療崩壊を防ぐための専用病院などの支出ができなくなったのに、最近になって医療が崩壊しそうだと批判した。
イ)エビデンスがないのにGOTOトラベルが感染拡大の元凶と決めつけておきながら、それを中断すると一転して旅行ビジネスが苦境になると言い出した。
ウ)昨年12月のコロナ対策が大きすぎると批判して、1ヶ月後に緊急事態宣言がでると対策が遅れて規模が少ないと1ヶ月前を忘れて批判した。
エ)新型コロナ特措法では、当初は盛り込まれていた刑事罰を取り下げると、緊急事態宣言が延長になるとより厳しい措置が必要だといった。
筆者は、本コラムで以前からマスコミに厳しい批判をしてきた。「人生の半分を「新聞なし」で生きてきた私が新聞の凋落問題に思うこと」が一例だ。これは今に始まったことではないが、コロナ禍で劣化が激しくなった。photo by istock
マスコミを取り巻く環境は次のようにまとめられる。
新聞は大量印刷・配布、テレビは電波利用の技術に支えられている。それぞれ特権がある。
新聞は、(1)日刊新聞紙法、(2)価格カルテル、(3)消費税軽減税率、(4)国有地低廉売却だ。
(1)で新聞の株式には譲渡制限があり、(2)で新聞は独禁法の再販規制で実質的な価格カルテルが認められ、(3)で消費税の軽減税率を受け、(4)で過去に国有地を低廉で譲り受け、それが今日の不動産収入の礎になっている。
コロナ前から発行部数は右肩下がりで…
批判があまりにも低レベルすぎる
テレビは、(1)クロスオーナーシップ、(2)電波割当が特権だ。(1)は、先進国では新聞がテレビを支配下にするのは一般的に認められていないが、日本ではテレビはほぼ新聞の系列会社になっている。
日刊新聞紙法があるので、新聞の株主異動はないこととあわせて考えると、日本のマスコミは、ガバナンス不在といってもいい。
(2)も先進国では日本だけ、電波オークションがない。これらにより、日本の新聞・テレビが既得権だらけの世界であることがわかるだろう。
そこで展開される報道は、まずストーリーありきだ。上の例では、まず政府批判するだけだ。そこで政府の方針と真逆のことを、大変だ大変だと吹いて回る。
その後で、筆者などは検証するが、マスコミは、とにかくその場で逆のことを言うだけなので、批判の形としてはきわめてシンプルだ。しかし、筆者のように、その後の状況を書くと、その場その場で「テキトウ」なことを言っているのがバレバレだ。
このように批判としては低レベルなのだが、社説などで上から目線の意見をいうというのが、今のマスコミのスタイルである。
筆者の書いたものを見ればわかるが、筆者は政府や政治家の一次情報を元にして、その論評を書いている。そこは当然ながら、政府の方針とは是々非々である。
コロナ前から発行部数は右肩下がりで…
新聞の発行部数は10年で…
今や、政府や政治家がネット上で一次情報を出す時代なので、それらを分析すれば、はっきりいって既存のマスコミと同等かそれ以上の記事を作ることができる。
筆者は、もはや既存のマスコミの社会的な意義もなくなろうとしていると考えている。それは、新聞の発行部数が激減していることからもわかる。
新聞協会から「新聞の発行部数と世帯数の推移」(2020年調査)が公表された。
ここで特筆すべきは、1世帯当たり部数の減少が加速していることだ。2020年はコロナでの影響があっただろうが、それ以前から減少に加速がついていた。
それを考慮し、世帯数の先行きに政府の人口推計(2018)を使い、筆者が将来推計を行っところ、「あと10年で新聞は消滅する」という、悲惨な結果が出た。拡大画像表示
新聞社は、かつて大蔵省から低廉譲渡された不動産があるので、不動産会社としてみれば立派なものだ。それで「副業」として新聞業を営めるだろうが、今の人員は当然ながら必要ないだろう。
既存マスコミで危ないのは、新聞だけではない。新聞社の系列テレビも広告減少で、この先は青息吐息だろう。インターネットでは、視聴者はリアルタイムに属性などが把握できるので、ターゲット広告が可能でコスパはテレビよりはるかに優れている。
このため、広告主はテレビからインターネットに雪崩を打って動いている。新聞もテレビも、これまで独自の技術やノウハウで身を守ってきたが、インターネットの出現により、技術独占は崩れた。
インターネットを使って、新聞やテレビが報道できないことを書けば、それなりのビジネスになる。筆者の例であるが、新聞は、(3)消費税軽減税率、(4)国有地低廉売却という特権があるので、財務省に忖度せざるを得ない。だから、マスコミは「財政が危ない」というストーリーばかり書く。
コロナ前から発行部数は右肩下がりで…
森友問題のときもそうだった
これが事実ならいいが、筆者の分析では、公表されているバランスシートなどの財務諸表からみれば、先進国の中でもそれほど危なくない。本コラムを読めばわかるが、筆者は公表された資料に基づいてそれを書いているだけだ。冒頭に掲げたア)~ウ)のエピソードは、その応用問題にすぎない。
森友問題でも、安倍晋三氏の昭恵夫人が関係していると思い込み、それで国有地を安くしたというストーリーありきだった。
筆者の見立ては、国有地の払い下げで競争入札にすべきだったのに近畿財務局がチョンボした、というものだ(『森友学園に関する私の発言に、財務省が抗議してきたので反論しよう』)。
これはまったく報じられなかったが、マスコミ自身も自社の不動産で、随意契約で安価で払い下げでもらうという(4)国有地低廉売却の意味を理解しているので、昭恵夫人関与の安易なストーリーによる政府批判に飛びついたのだろう。
加計問題でも、安倍晋三氏の友人の加計氏なので優遇したというストーリーありきだった。実際は、医学部も獣医学部も既得権を守り新設が長年認められなかった。新聞社も(2)実質的な価格カルテルという既得権があるので、既得権批判を回避し、友人への便宜という安易なストーリーによる政府批判になったのだろう。
冒頭のエピソードうち、エ)は、なかなか深刻な問題が背後にある。非民主国家なら、人の移動に対する強制的な措置が「直ちに」に可能なので感染が広がりにくい。
コロナ前から発行部数は右肩下がりで…
民主主義指数とコロナ死亡者数の関係
ただし民主国家でも、どこの国も「非常事態宣言」自体は可能なので、その気になれば感染拡大の防止はできる。
と考えると、新型コロナの影響について、非民主的国家では少なく、民主的国家では、ピンからキリまであるだろう。
実際に、世界各国の民主主義指数と新型コロナによる死者(100万人あたり)をみると、以下のようになっている。拡大画像表示
予想通り、非民主主義国は新型コロナの影響は少なく、民主主義国では影響は少ない国から大きな国まであり、民主主義指数とコロナ死者の相関係数は0.46と高い。
その中で、日本は民主的な国家であるが、他の国では当たり前に憲法での「緊急事態条項」もないので、非常時の私権制限を伴う強制措置がとりにくい。
非常時対応できないのは確かだが、その中で、日本のパフォーマンスは立派なものだ。民主主義指数>8、百万人当たりコロナ死者<200という上の図で右下部分、つまり民主主義国で高いパフォーマンスの国をみると、163ヶ国中10ヶ国しかない。
Australia、Finland、Iceland、Japan、Mauritius、New Zealand、Norway、S. Korea、Taiwan、Uruguayであり、日本はその一員だ。
非常時の私権制限を伴う強制措置を予め考えておくことはもちろん必要だ。しかし、その代わりに、日本は巨額の財政出動があってしかるべきだ。筆者は現状、封じ込め政策は世界的にみれば功を奏したと思っている。拡大画像表示